キッチンを素通りしてどこに向かうのかと思ったら、別の部屋のドアを開けてそこへ入っていく。
姿は見えなくなったが、水の流れる微かな音と「うわさっむ」という声は聞こえてくる。
けれど真帆は、醜態ってなんだ……何を晒したんだ!?と頭を悩ませることに忙しく、聞いているようで聞いていない。

再び田辺がパンツ一枚で戻って来て「寒い、寒い」と言いながらクローゼットを開け、そこから服を取り出して着ている間も、真帆はベッドの上で固まっている。
頭の中では、田辺の放った言葉達がぐるぐると回っていた。

一体昨日の自分は何をやらかしてしまったのか、どんな醜態を晒したというのか、しかも相手は久しぶりに顔を合わせた元クラスメイトで、仲良しの友達でもなんでもない。
私の人生はここで詰んだのだろうか。いやでもまだ口止め料という手がある。相場はいくらくらいなものだろう。ああでも、お金ですっきり解決出来るものだろうか。そもそも、積めるほどのお金もない。

考えれば考えるほど怖くなって青くなる真帆。けれどその過程で、もしかしたら昨夜田辺と……といらん想像をしてしまって、今度は耳まで赤くなる。
恥ずかしさと後悔と恐怖、ついでに鈍い頭の痛みに襲われて百面相する姿を、すっかり身支度を整えた田辺がすぐそばで面白そうに眺めていることを、真帆は知らない。