最適な温度というものももちろんあるが、ポットの蓋を開けてみたところで素人目にはわからないし、温度計を登場させるほどでもない。
素人の感覚で、まあいいかなというところで火を止めて、ドリッパーにセットした粉にお湯を注いでいく。

一人分であれば直接カップにドリッパーをセットするのだが、今回は二人分なので、ドリッパーの下にはサーバーを置く。
島田からコーヒーのオーダーは受けていないが、どうせ飲むだろうから聞かずとも用意する。

洗い物を終えた島田も興味深げに見つめる中、岡嶋はドリップを開始した。
何度も言うがプロではないので、やり方は独学というか、店で飲む時に見たプロの手元を思い出し、見様見真似でやっているだけ。

自分と身内が飲む分を淹れるだけなのでそれで問題ないし、楽しければそれで良しだ。
お湯を含んだ粉が膨らんでいく様子を眺めているうちに、徐々に心臓の鼓動が通常通りに戻っていく。湯気と共に立ち上る香りも、それに一役買っている。

おおー、膨らんだ!と楽しそうな声をあげた島田が、もっとよく見ようと一歩距離を詰めても、心臓は至って平常運転だ。
よしよしと内心頷きながら、岡嶋はゆったりとコーヒーを淹れる。