アルコールを入れても記憶を失くしたことなんかないのに、こんなに何も思い出せないか?というくらい、昨日のことが思い出せない。
正確には、飲み会帰りだと夜に訪ねてきた島田にココアを作り、早く飲めと何度も急かしたことは覚えている。

だがそのあと、自分がどういう経緯でベッドに寝たのかが思い出せない。
記憶にある段階では、確かにソファーで寝るつもりだったのだ。だからこそ、ソファーを使っている島田を急かしたわけだし。
それなのに、なぜ……――。


「……ついに年か」


そんな絶望が入り混じった呟きを漏らすと、ぷふっと島田が吹き出す声が聞こえた。


「今からそんなこと言ってどうするの。まだまだ年を気にするような年代じゃないでしょ」


二十代になりたての女子大生に言われると、慰めになるような、より空しくなるような……。


「いいか、島田。二十代も後半になると、あれ?ってちょっとした違和感を感じる瞬間があってだな、それが三十代に入ると、嘘だろ……って信じたくないようなことも起きたりするんだ」

「ふーん」


ついこの間まで十代だった島田に言っても、きっと理解はしてもらえないだろう。わかっているから、その気の抜けた返事もしょうがないと受け止められる。