「あー、笑った笑った。朝からこんなに笑ったの初めてかも。……いや、もう昼か」


田辺が視線を動かした先、テレビの横には置き型の時計があって、針が指し示す時刻は確かに、朝というより昼に近い。


「田中さん、何か食べられそう?笑わせてもらったお礼に、お昼ご馳走するよ」

「……いや、あの、お気持ちだけで。それより私の服は」


田辺を笑わせるつもりなんて微塵もなかったし、そもそもこの状況で一緒にお昼を食べたいとは思えない。
真帆としては一刻も早く家に帰り、昨日の記憶をどうにかして取り戻して、何があったのか、もしくはなかったのかを突き止めたいのだ。


「遠慮しなくていいよ。そうだなー…………よし、うどんにしようか。確かあったはず。あとネギと生姜と……あっ、卵もいいね」

「いや、あの……」

「思い切って鶏肉も入れちゃう?親子丼的な」

「いや、それはちょっとさすがに……」


大変美味しそうではあるが、今の真帆の胃がそれを受け付けてくれるとは思えない。
というか、一緒にお昼を食べるつもりなどないというのに、真帆の都合など聞くつもりもない様子の田辺は、何やら一人楽しそうで「そうだよね、また吐かれても困るし」と呟きながらベッドを降りて歩き出す。