「でも大丈夫です。コーヒーはインスタントしか飲まない俺なんかより、もっと有効活用してくれそうな人にあげるんで」

「……へー、そうか」


何が大丈夫かはさておいて、ひとまず岡嶋は進行方向に向き直って再び歩き出す。
ややあって、追いかけてくる足音が聞こえたかと思ったら、田辺が隣に並んだ。


「ところでお前、本当はやったのかやってないのかどっちなんだ」


不意打ちの問いかけなら、ぽろっと答えたりしないだろうかと思ったが


「岡嶋さんは、どっちだと思います?」


やはりこの部下は、一筋縄ではいかないようだ。
にっこり笑ったその顔からは、真相がまるで窺い知れない。
まあ、これでぽろっと答えたらめっけものくらいの気持ちだったから、岡嶋は「さあな」と返して早々と引いた。


「俺と田中さんの結婚式には、もちろん岡嶋さんも招待しますから、スピーチお願いしますね」


本気なのか冗談なのか、読めないから反応に困る。


「だから岡嶋さんも、年下の彼女と結婚する時には、忘れずに俺のこと招待してくださいね。部下代表のスピーチ、考えておきますから」


いい加減にしろという意味を込めて、岡嶋は田辺の後頭部を平手で叩いた。