「ちょっと田辺くん、ミトンないの」

「ミント?」

「ミ・ト・ン!鍋つかみのこと」

「ああ、それね。ないけど」


“ないけど”ではないのだ。この誰がどう見ても熱いカップを、ミトンなしでどうやって取り出せというのか。


「俺が出そうか。ほら、今日の俺はちょっと袖厚いし」


確かに、真帆よりも田辺が着ているものの方が生地が厚い。


「じゃあ出してここに置いて。早くね。カラメル固まっちゃうから」


カウンターの向こうから足早にやって来た田辺は、袖を目一杯引っ張って手を覆おうと、そのまま電子レンジの中のカップを両手で挟むようにして取り出す。


「あっつ!!」


厚い生地であろうとも、どうやら熱さは防ぎきれなかったらしい。
田辺が調理台に置いたカップに、真帆が出来立てのカラメルソースをかけていく。

お玉を使うのなんて面倒くさいので、鍋の注ぎ口を利用して直接かける。
おおー、と田辺から歓声が上がり、完成したところで拍手も起こった。


「食べよう食べよう!いやあー出来立てプリン、楽しみだなー」


テーブルまで運ぶのかと思ったら、田辺は真帆にスプーンを渡したあと、その場で立ったまま食べ始める。
行儀が悪いなと思いつつも、真帆もその場で熱々プリンにスプーンを入れた。