「田中さんはさ、どっちだったら嬉しい?本当だった方か、嘘だった方か」


そんなの決まっているだろうに、なぜそんなわかりきったことを訊くのか。
質問の意図が読めずに顔を上げれば、目が合った田辺がにこっと笑った。
田辺ファンの真帆の友人が見たら黄色い悲鳴を上げそうな笑顔だが、真帆には悪魔の微笑みに見える。


「なんでそんなわかりきったこと訊くのか知らないけど、嘘だった方に決まってるでしょ。よく知りもしない相手と酔った勢いで一夜を共にするような女に成り下がったとは思いたくない」

「うわあ……凄い言いよう。よく知りもしないって、俺達一応高校の同級生だよ?三年間一緒に過ごしてたんだよ」

「同じ教室で授業を受けてたってだけでしょ。同窓会で会うまでお互いの存在を忘れてたんだから、“よく知りもしない”で充分過ぎる」


砂糖が溶けて水と混ざり合い、ふつふつと煮えて端から徐々に茶色く色づいていく。
鍋と電子レンジから、それぞれ違った、でもどちらも甘い香りが漂ってきて、キッチンだけでなく部屋中に広がっていく。

甘い物が好きな人にしてみれば、これはとても幸せな瞬間だと思う。真帆も前は、この瞬間に幸せだけを感じていた。
けれど今は、胸が痛くなる。