「昨日の夜のこと。何かあった風に言って私をおちょくってるだけで、本当はなんにもなかったんでしょ」

「何でそう思うの?」

「勘。あとは、本当に何かあったにしては田辺くんが楽しそうにし過ぎだから」


性悪な性格であることはよくわかった。でも、それにしたって、かつてのクラスメイトと一夜を共にしたにしては、楽しそうにし過ぎではなかろうか。
性悪ではあるけれど、女性と一晩過ごすことに慣れていますというような、チャラついた印象は受けないのだ。

それならば、少しくらい照れるとか、気まずい空気を醸し出すとか、何かしらおかしい部分があってしかるべきだろう。
それなのにここまでの中で田辺は、一貫して楽しそうなのだ。


「俺が楽しそうにし過ぎなのは、田中さんが原因だけどね」

「なんでよ」

「反応がいちいち面白いのが悪い」


乗り出していた身を引っ込めた田辺は、今度はカウンターに頬杖をついて真帆を見る。その顔に浮かぶ余裕の笑顔が、物凄く腹立たしい。
これはもうダメだ。このままだとイライラに負けて声を荒らげてしまって、田辺のペースにはまってしまう。それこそ、田辺を楽しませてしまう。

それは不本意なので、真帆は一旦追及を諦めてコンロの火を点けた。
いい線いったと思っていたのに、この流れならば聞き出せると思ったのに、悔しい。