「ただいま」

スーツを着た母さんが疲れた様子で、ソファに座り込んだ。

「おかえり。結衣、寝かせといたから。夕飯もカレー作ったからあっためる?」

「いつもごめんね。壮馬」

申し訳なさそうに母さんが言った。

「いいって。それより、俺、バイトはじめたいんだけど」

「バイト?」

「新聞配達とカフェのバイト」

母さんが俺の肩を掴んで言った。

「壮馬。あなたはお金のことなんか気にしなくていいのよ。せっかく行きたかった高校に受かったのに、写真撮るのが好きだからって美術部にも入ったんでしょ?友達もできそうだって言ってたじゃない」

「俺がやりたいからやるんだよ。母さんも俺のことは気にしなくて大丈夫だから。バイト、やってもいいだろ?」

母さんは納得がいかないようだったが、渋々頷いた。

「あなたがやりたいんだったら、好きにしなさい。でも、無理はしないようにね」

「わかってるって」