あたしの初小説、「悪役令嬢に転生しましたがヒロインが可愛くて困ります」のプロローグの閲覧数は、実に寂しいものであった。二桁いかない。内、三つはきっと先輩たちだから、実際の閲覧者数はというと……考えたくもない。
でも、ここからだ! まだ序盤しか無い小説がそうそう人気になることなんてない。テンポ良く投稿を続けてさえいれば、きっと読者がついてくれるはず。あたしはそう願いながら、エレノアの物語を作り上げることに専念した。
そう、専念するはずだったんだが……。残念なことに、あたしは高校生である。定期テストというものがある。五月のテスト期間中、執筆は一旦お休みして、本業に目を向けた。
「あー! やっと終わった!」
テスト最終日の放課後。それは金曜日だった。瑠可先輩は大声をあげ、天に向かって両腕を突き出した。快人先輩はそれを見て微笑み、祥太先輩はあくびをした。
「なあ、テスト終わったし、週末どっか遊びに行かね?」
瑠可先輩が言うと、快人先輩がこう返した。
「それは……優衣さんも含めて、ですか?」
「当然だよ。快人、ダメなわけ?」
「いいえ。むしろ嬉しいです。優衣さんの私服は一度見てみたいと思っていましたし」
「へっ!? あたしの私服ですか!?」
「確かに! 俺も気になってたんだ」
「優衣ちゃんのことだからきっと可愛いんだろうね?」
たじろぐあたしを尻目に、話はどんどん進んでいった。
「週末って土日のどっちなの、瑠可」
「土曜でいいんじゃね? 日曜はゴロゴロしたいし」
「確かにそうですね。じゃあ、土曜の十時くらいはどうでしょうか?」
そうして、あっという間に、文芸部の四人で近所のショッピングモールへ行くことになってしまったのである。
帰宅したあたしは、クローゼットを開けてため息をついた。どうしよう。先輩たちに期待されているような、可愛い私服というものをあたしは持っていない。お洒落に興味が無いことは無いのだが、動きやすさを重視したシンプルなものしかいつも買わないのだ。
「どうしたらいいの、エレノアぁ」
あたしはノートに向かって声をかけた。当然、応える者は居ないが、あたしの癖のようなものである。エレノアなら、場所や時間に応じて、わきまえた服装ができるんだろうな。何しろ公爵令嬢なのだから。
さて、今から新しい服を買うにも時間が無いし、とあたしは手持ちの服をとりあえず眺めてみた。歩き回るだろうから、というよりは、それしか持ってないから、ボトムスはデニム。トップスが問題だ。
散々悩んだ挙句、あたしはピンク色のブラウスを選んだ。可愛いといえばピンク、というセンスの貧困さには我ながら呆れるが、これしか無いんだから仕方ない。
そして、靴が無いことに気付いた。スニーカーしか持っていない。ヒールの靴なんて、欲しいとすら思ったこともない。パンプスくらいは用意しておけば良かったと悔やむがもう遅い。
「まあ、いっか。相手は先輩たちなんだし……」
あたしはもう開き直ってしまうことにした。これがデートなら、延期でも何でもしてもらって服装を整えるべきだろうが、一緒に行くのはただの部活の先輩たちである。これはデートじゃない。
あと、メイクとかも特にしなくていいか。そこまで気合い入れてるなんて思われたくないしね。
でも、ここからだ! まだ序盤しか無い小説がそうそう人気になることなんてない。テンポ良く投稿を続けてさえいれば、きっと読者がついてくれるはず。あたしはそう願いながら、エレノアの物語を作り上げることに専念した。
そう、専念するはずだったんだが……。残念なことに、あたしは高校生である。定期テストというものがある。五月のテスト期間中、執筆は一旦お休みして、本業に目を向けた。
「あー! やっと終わった!」
テスト最終日の放課後。それは金曜日だった。瑠可先輩は大声をあげ、天に向かって両腕を突き出した。快人先輩はそれを見て微笑み、祥太先輩はあくびをした。
「なあ、テスト終わったし、週末どっか遊びに行かね?」
瑠可先輩が言うと、快人先輩がこう返した。
「それは……優衣さんも含めて、ですか?」
「当然だよ。快人、ダメなわけ?」
「いいえ。むしろ嬉しいです。優衣さんの私服は一度見てみたいと思っていましたし」
「へっ!? あたしの私服ですか!?」
「確かに! 俺も気になってたんだ」
「優衣ちゃんのことだからきっと可愛いんだろうね?」
たじろぐあたしを尻目に、話はどんどん進んでいった。
「週末って土日のどっちなの、瑠可」
「土曜でいいんじゃね? 日曜はゴロゴロしたいし」
「確かにそうですね。じゃあ、土曜の十時くらいはどうでしょうか?」
そうして、あっという間に、文芸部の四人で近所のショッピングモールへ行くことになってしまったのである。
帰宅したあたしは、クローゼットを開けてため息をついた。どうしよう。先輩たちに期待されているような、可愛い私服というものをあたしは持っていない。お洒落に興味が無いことは無いのだが、動きやすさを重視したシンプルなものしかいつも買わないのだ。
「どうしたらいいの、エレノアぁ」
あたしはノートに向かって声をかけた。当然、応える者は居ないが、あたしの癖のようなものである。エレノアなら、場所や時間に応じて、わきまえた服装ができるんだろうな。何しろ公爵令嬢なのだから。
さて、今から新しい服を買うにも時間が無いし、とあたしは手持ちの服をとりあえず眺めてみた。歩き回るだろうから、というよりは、それしか持ってないから、ボトムスはデニム。トップスが問題だ。
散々悩んだ挙句、あたしはピンク色のブラウスを選んだ。可愛いといえばピンク、というセンスの貧困さには我ながら呆れるが、これしか無いんだから仕方ない。
そして、靴が無いことに気付いた。スニーカーしか持っていない。ヒールの靴なんて、欲しいとすら思ったこともない。パンプスくらいは用意しておけば良かったと悔やむがもう遅い。
「まあ、いっか。相手は先輩たちなんだし……」
あたしはもう開き直ってしまうことにした。これがデートなら、延期でも何でもしてもらって服装を整えるべきだろうが、一緒に行くのはただの部活の先輩たちである。これはデートじゃない。
あと、メイクとかも特にしなくていいか。そこまで気合い入れてるなんて思われたくないしね。