祥太先輩の添削のお陰もあり、新しいプロローグが何とか書きあがった。元のものとはまるで違う様相だが、三人全員がこっちの方が読みやすい、と言うので、太鼓判を押されたということだろう。
ここで、試しに小説サイトに投稿してみようかとも思ったんだが。
「作家名、決まってないんですよねぇ……」
いつもの放課後、あたしは先輩たちに相談した。
「読み専……読む専門のアカウントはあるんですけど、作家名が思いつかなくて、とりあえずユイとしたまんまなんです」
「そうでしたか。作家名は大事ですからね」
快人先輩は、メガネのフチに手をやりながら、考え込むような表情をした。瑠可先輩が、呑気な声を出した。
「別に、まんまでよくね?」
「いえ、ダメでしょう。本名のままではちょっと」
「そういうもんなの?」
「そうですよ。作家の個性が出る場所でもありますからね」
次いで祥太先輩が、ルーズリーフを取り出した。
「じゃあ、おれたちが考えてあげるよ! どんなのがいい?」
「えっと……そうですね。苗字と名前があるものがいいです」
祥太先輩は、ルーズリーフに浅川優衣、と書いて言った。
「本名から連想していくのはどう?」
「それいいですね!」
あたしは祥太先輩の案に乗った。それから瑠可先輩が、こんなことを言った。
「名前は……そうだな。優衣の優を取ってユウとでもすればいいんじゃね?」
「ほうほう。瑠可先輩にしてはいい発想ですね」
「おい、折角考えてやってるのになんだその言い方は」
文芸部で過ごして、すでに一か月が過ぎていた。なのであたしも、先輩たちに言いたいことが言えるようになってきた。瑠可先輩は、見た目や口調こそ荒っぽいが案外いなしやすい。
「それじゃあ、衣を言い換えてみるのはどうですか? 苗字っぽい感じに。衣、衣服……更紗、とかはどうでしょう」
「さすが快人先輩!」
快人先輩は、見た目通り物腰が柔らかくてとっつきやすくて、発想も素晴らしい。
「サラサ? 何だそれ」
「木綿の布のことだよ、瑠可。インド発祥の鮮やかなやつ」
「祥太先輩、よく知ってますね」
金髪でチャラチャラした見た目とは違い、意外に博識な祥太先輩。彼はルーズリーフに、更紗ユウ、と書いた。あたしは叫んだ。
「良いですね! 響きも可憐ですし!」
「そうだね! 優衣ちゃんにぴったりだよ」
「ぴったりだなんて、祥太先輩ったら」
「まあ、名前としては悪くねぇな」
「瑠可先輩も同感ですか!?」
「ぴったりかどうかは別だ」
更紗ユウ。悪役令嬢モノを書く作家の一人。もし書籍化されたら、この名前が載るのだ。想像するだけで、うきうきしてしまった。あたしはもう、この名前に決めた。
「じゃ、じゃあ、初投稿してみます……!」
あたしはノートパソコンを操作し、小説サイトのプロフィール欄を編集した。そして、ここ何週間か練りに練り上げてきた渾身のプロローグをアップロードした。
「おめでとうございます。これで優衣さんの小説家デビューが叶いましたね」
快人先輩が嬉しいことを言ってくれた。
「そんな、まだ小説家だなんて」
「いえいえ。僕から見ると、優衣さん、いえ、更紗ユウさんは立派な小説家ですよ?」
これで、あたしの心に火がついた。発想が溢れだしてくる。止まらない。あたしは慌ててノートを取り出した。
「この先の展開、思いつきました! ちょっと作業にかかりますね!」
三人の先輩たちは、そんなあたしを暖かく見守ってくれるのであった。
ここで、試しに小説サイトに投稿してみようかとも思ったんだが。
「作家名、決まってないんですよねぇ……」
いつもの放課後、あたしは先輩たちに相談した。
「読み専……読む専門のアカウントはあるんですけど、作家名が思いつかなくて、とりあえずユイとしたまんまなんです」
「そうでしたか。作家名は大事ですからね」
快人先輩は、メガネのフチに手をやりながら、考え込むような表情をした。瑠可先輩が、呑気な声を出した。
「別に、まんまでよくね?」
「いえ、ダメでしょう。本名のままではちょっと」
「そういうもんなの?」
「そうですよ。作家の個性が出る場所でもありますからね」
次いで祥太先輩が、ルーズリーフを取り出した。
「じゃあ、おれたちが考えてあげるよ! どんなのがいい?」
「えっと……そうですね。苗字と名前があるものがいいです」
祥太先輩は、ルーズリーフに浅川優衣、と書いて言った。
「本名から連想していくのはどう?」
「それいいですね!」
あたしは祥太先輩の案に乗った。それから瑠可先輩が、こんなことを言った。
「名前は……そうだな。優衣の優を取ってユウとでもすればいいんじゃね?」
「ほうほう。瑠可先輩にしてはいい発想ですね」
「おい、折角考えてやってるのになんだその言い方は」
文芸部で過ごして、すでに一か月が過ぎていた。なのであたしも、先輩たちに言いたいことが言えるようになってきた。瑠可先輩は、見た目や口調こそ荒っぽいが案外いなしやすい。
「それじゃあ、衣を言い換えてみるのはどうですか? 苗字っぽい感じに。衣、衣服……更紗、とかはどうでしょう」
「さすが快人先輩!」
快人先輩は、見た目通り物腰が柔らかくてとっつきやすくて、発想も素晴らしい。
「サラサ? 何だそれ」
「木綿の布のことだよ、瑠可。インド発祥の鮮やかなやつ」
「祥太先輩、よく知ってますね」
金髪でチャラチャラした見た目とは違い、意外に博識な祥太先輩。彼はルーズリーフに、更紗ユウ、と書いた。あたしは叫んだ。
「良いですね! 響きも可憐ですし!」
「そうだね! 優衣ちゃんにぴったりだよ」
「ぴったりだなんて、祥太先輩ったら」
「まあ、名前としては悪くねぇな」
「瑠可先輩も同感ですか!?」
「ぴったりかどうかは別だ」
更紗ユウ。悪役令嬢モノを書く作家の一人。もし書籍化されたら、この名前が載るのだ。想像するだけで、うきうきしてしまった。あたしはもう、この名前に決めた。
「じゃ、じゃあ、初投稿してみます……!」
あたしはノートパソコンを操作し、小説サイトのプロフィール欄を編集した。そして、ここ何週間か練りに練り上げてきた渾身のプロローグをアップロードした。
「おめでとうございます。これで優衣さんの小説家デビューが叶いましたね」
快人先輩が嬉しいことを言ってくれた。
「そんな、まだ小説家だなんて」
「いえいえ。僕から見ると、優衣さん、いえ、更紗ユウさんは立派な小説家ですよ?」
これで、あたしの心に火がついた。発想が溢れだしてくる。止まらない。あたしは慌ててノートを取り出した。
「この先の展開、思いつきました! ちょっと作業にかかりますね!」
三人の先輩たちは、そんなあたしを暖かく見守ってくれるのであった。