プロローグを書くのに、一週間もかかった。というのも、あたしはキーボード入力に慣れておらず、まずはそこから始める必要があったのだ。そこについては、祥太先輩が優しく教えてくれた。
あたしが毎日部室で執筆に取り掛かっている間、彼らは思い思いの過ごし方をしていた。お菓子を持ってくるのは、暗黙の了解で三人で順番を回しているらしく、あたしは適度に糖分補給をしながら、冒頭を書き終えた。
「で、できました!」
遂に出来上がったテキストを、あたしはノートパソコンに表示させた。三人の先輩たちは、代わる代わるそれを読んでくれた。
***
チュンチュン…
麗らかな鳥のさえずりで目が覚めた。
えっ!?ここはどこ!?!?
寝ていたベッドにも、着ていた服にも見覚えが無い。
ベッドを下りると鏡台があって、私は鏡で自分の姿を覗き込んだ。
黒檀のような艶やかな髪に、燃えるような緋色の瞳。白く透き通った綺麗な肌。
これが私!?
「嘘でしょー!!!!!」
その叫び声を聞き付けて、メイドがやってきた。
「どうされましたか、エレノアお嬢様!?」
「えっ、私がエレノアお嬢様!?」
「そうですよ、本当に一体どうされてしまったんですか??」
どうやら私は、やりこんでいる乙女ゲームである「アンの野薔薇」に登場する悪役令嬢、エレノア・フォンティーヌになってしまったようなのだ!
「いえ…何でもないわ」
そうメイドに言って、鏡に向き直る。つり上がった鋭くも美しい目つきは、悪役令嬢そのものだ。でも、どうして私がエレノアになってしまったんだろう!?
少し前の事を思い返す。確か、私は学校帰りにバスを待っていて、そのときにトラックが突っ込んできて…!!!!
まさか。転生してしまったというの!?
***
「どうですか!?」
自分では会心の出来なのだが、先輩たちの表情が暗い。真っ先に言い放ったのは、瑠可先輩だった。
「なんつーか、読みにくいな」
そして、祥太先輩が具体的な指摘をした。
「文章が詰まりすぎてるねぇ。あと、字下げしないと。文章の基本だよ、優衣ちゃん」
さらに、快人先輩もこう言った。
「感嘆符がやたらと多いですね」
「そ、それは、主人公の驚きの程度を表すためでして」
「安易な方法に頼っていませんか? そこは地の文で示すところでしょう」
ぐうの音も出なかった。がっくりと肩を落とすあたしの頭を、瑠可先輩がポンポンと撫でた。
「まあ、初めなんてそんなもんだよ。祥太、お前小説はともかく小論文とか得意だろ? 読みにくいところ、添削してやれよ」
「うん、そうだね。おれに任せてよ」
そうして祥太先輩は、あたしの駄文にメスを入れていった。心にざあざあと雨が降っているが、そう落ち込んでもいられない。ここは先輩たちの言うことを有難く受け止めなくては、この先やっていられない。
そうだ。初めて発表したのが、この部室内だけで良かった。こんなものをネットの海に放り込んだら、果たしてどうなっていたことやら。あたしは文芸部に入部したことは正解だったと自らの選択を褒めることにした。
あたしが毎日部室で執筆に取り掛かっている間、彼らは思い思いの過ごし方をしていた。お菓子を持ってくるのは、暗黙の了解で三人で順番を回しているらしく、あたしは適度に糖分補給をしながら、冒頭を書き終えた。
「で、できました!」
遂に出来上がったテキストを、あたしはノートパソコンに表示させた。三人の先輩たちは、代わる代わるそれを読んでくれた。
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チュンチュン…
麗らかな鳥のさえずりで目が覚めた。
えっ!?ここはどこ!?!?
寝ていたベッドにも、着ていた服にも見覚えが無い。
ベッドを下りると鏡台があって、私は鏡で自分の姿を覗き込んだ。
黒檀のような艶やかな髪に、燃えるような緋色の瞳。白く透き通った綺麗な肌。
これが私!?
「嘘でしょー!!!!!」
その叫び声を聞き付けて、メイドがやってきた。
「どうされましたか、エレノアお嬢様!?」
「えっ、私がエレノアお嬢様!?」
「そうですよ、本当に一体どうされてしまったんですか??」
どうやら私は、やりこんでいる乙女ゲームである「アンの野薔薇」に登場する悪役令嬢、エレノア・フォンティーヌになってしまったようなのだ!
「いえ…何でもないわ」
そうメイドに言って、鏡に向き直る。つり上がった鋭くも美しい目つきは、悪役令嬢そのものだ。でも、どうして私がエレノアになってしまったんだろう!?
少し前の事を思い返す。確か、私は学校帰りにバスを待っていて、そのときにトラックが突っ込んできて…!!!!
まさか。転生してしまったというの!?
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「どうですか!?」
自分では会心の出来なのだが、先輩たちの表情が暗い。真っ先に言い放ったのは、瑠可先輩だった。
「なんつーか、読みにくいな」
そして、祥太先輩が具体的な指摘をした。
「文章が詰まりすぎてるねぇ。あと、字下げしないと。文章の基本だよ、優衣ちゃん」
さらに、快人先輩もこう言った。
「感嘆符がやたらと多いですね」
「そ、それは、主人公の驚きの程度を表すためでして」
「安易な方法に頼っていませんか? そこは地の文で示すところでしょう」
ぐうの音も出なかった。がっくりと肩を落とすあたしの頭を、瑠可先輩がポンポンと撫でた。
「まあ、初めなんてそんなもんだよ。祥太、お前小説はともかく小論文とか得意だろ? 読みにくいところ、添削してやれよ」
「うん、そうだね。おれに任せてよ」
そうして祥太先輩は、あたしの駄文にメスを入れていった。心にざあざあと雨が降っているが、そう落ち込んでもいられない。ここは先輩たちの言うことを有難く受け止めなくては、この先やっていられない。
そうだ。初めて発表したのが、この部室内だけで良かった。こんなものをネットの海に放り込んだら、果たしてどうなっていたことやら。あたしは文芸部に入部したことは正解だったと自らの選択を褒めることにした。