文芸部に入部した翌日。あたしは軽い足取りで部室へと向かっていた。もう、あそこはあたしの居場所なのだ。思っていたのとは違うけれど、支えてくれる先輩たちもいる。カバンには、エレノアのノート。今日はこれを初公開するのだ。
部室に入ったとき、既に三人の先輩たちは揃っていて、長机の上に置いたスナック菓子をつまんでいた。まずは快人先輩が声をかけてくれた。
「こんにちは、優衣さん。よければ、お菓子どうぞ」
「はい、頂きます」
パイプ椅子に座り、スナック菓子を口に放り込むと、祥太先輩がにこやかに寄ってきて、あたしの右腕をつついてきた。
「優衣ちゃん、今日はノート見せてくれるんだよね?」
「はい! 少し恥ずかしいですけど……」
あたしがカバンからノートを取り出すと、三人の先輩たちが一斉に覗き込んできた。
「うわっ、下手くそな絵だな」
「失礼ですね!」
いきなりの瑠可先輩のダメ出し。これに怖気づくあたしではない。あくまで小説を書きたいのだから、絵の上手さなんて二の次だ。書籍化したら、絵師さんがついてくれるだろうしね。
「これがエレノアです」
「へー、いかにも悪役っていう目つきだな」
祥太先輩が、エレノアの絵の目元を指した。そう、そこが良いのだ、彼女は。続いてあたしは、彼女の設定について説明した。
「彼女は公爵令嬢です。王家との繋がりが深く、地位も財力も物凄く高いんです」
「ああ、悪役令嬢のテンプレってやつか」
瑠可先輩が理解を示したようなので、先を続けた。
「エレノアは、王子であるジュールと婚約しています。そこに平民であるアンが現れて、婚約を破棄されるんです」
「王子と平民……ですか」
「はい、快人先輩。作中のゲームの中では、アンが主人公なんです。この子も良い子なので、エレノアに転生した本人は実は嫌っていないんです」
あらすじはこうだ。ある日突然、自分のやっていたゲームの悪役令嬢であるエレノアに転生してしまった主人公は、自分の運命を変えるため奔走する。主人公は心優しい性格なので、アンを虐めようにも虐めきれずにいる。そんなところだ。
「で、話はどうなるんだ?」
瑠可先輩の言葉に、あたしはたじろいでしまった。
「ちょっと悩んでまして……。エレノアの幼馴染とか、騎士隊長とか、キャラクターはたくさん思い浮かんでいますし、ノートにも設定は書いているんですけど」
「キャラクターの動かし方や、その後の展開が思い浮かばない、と」
快人先輩が整理してくれた。やはり、この中で一番頼れるのはこの先輩だ。祥太先輩は、勝手にページをめくってへーやらほーんやら声を出していた。瑠可先輩は、気がそれたのか、スマホに目を落としていた。
「とりあえず、プロローグだけでも書いてみてはどうですか?」
そう快人先輩が提案してくれた。
「そうですね! 転生してきたところまでは決まっていますし!」
「部活用のパソコンがありますから、それを自由に使っていいですよ」
「本当ですか!?」
部室の戸棚を開けた快人先輩は、ノートパソコンと充電ケーブルの一式を渡してくれた。祥太先輩は、まだノートを読み込んでいる。瑠可先輩はというと、とうとうスマホゲームを始めたようだった。
「じゃあ、書いてみますね!」
そうしてあたしは、エレノアの物語を紡ぎ始めた。
部室に入ったとき、既に三人の先輩たちは揃っていて、長机の上に置いたスナック菓子をつまんでいた。まずは快人先輩が声をかけてくれた。
「こんにちは、優衣さん。よければ、お菓子どうぞ」
「はい、頂きます」
パイプ椅子に座り、スナック菓子を口に放り込むと、祥太先輩がにこやかに寄ってきて、あたしの右腕をつついてきた。
「優衣ちゃん、今日はノート見せてくれるんだよね?」
「はい! 少し恥ずかしいですけど……」
あたしがカバンからノートを取り出すと、三人の先輩たちが一斉に覗き込んできた。
「うわっ、下手くそな絵だな」
「失礼ですね!」
いきなりの瑠可先輩のダメ出し。これに怖気づくあたしではない。あくまで小説を書きたいのだから、絵の上手さなんて二の次だ。書籍化したら、絵師さんがついてくれるだろうしね。
「これがエレノアです」
「へー、いかにも悪役っていう目つきだな」
祥太先輩が、エレノアの絵の目元を指した。そう、そこが良いのだ、彼女は。続いてあたしは、彼女の設定について説明した。
「彼女は公爵令嬢です。王家との繋がりが深く、地位も財力も物凄く高いんです」
「ああ、悪役令嬢のテンプレってやつか」
瑠可先輩が理解を示したようなので、先を続けた。
「エレノアは、王子であるジュールと婚約しています。そこに平民であるアンが現れて、婚約を破棄されるんです」
「王子と平民……ですか」
「はい、快人先輩。作中のゲームの中では、アンが主人公なんです。この子も良い子なので、エレノアに転生した本人は実は嫌っていないんです」
あらすじはこうだ。ある日突然、自分のやっていたゲームの悪役令嬢であるエレノアに転生してしまった主人公は、自分の運命を変えるため奔走する。主人公は心優しい性格なので、アンを虐めようにも虐めきれずにいる。そんなところだ。
「で、話はどうなるんだ?」
瑠可先輩の言葉に、あたしはたじろいでしまった。
「ちょっと悩んでまして……。エレノアの幼馴染とか、騎士隊長とか、キャラクターはたくさん思い浮かんでいますし、ノートにも設定は書いているんですけど」
「キャラクターの動かし方や、その後の展開が思い浮かばない、と」
快人先輩が整理してくれた。やはり、この中で一番頼れるのはこの先輩だ。祥太先輩は、勝手にページをめくってへーやらほーんやら声を出していた。瑠可先輩は、気がそれたのか、スマホに目を落としていた。
「とりあえず、プロローグだけでも書いてみてはどうですか?」
そう快人先輩が提案してくれた。
「そうですね! 転生してきたところまでは決まっていますし!」
「部活用のパソコンがありますから、それを自由に使っていいですよ」
「本当ですか!?」
部室の戸棚を開けた快人先輩は、ノートパソコンと充電ケーブルの一式を渡してくれた。祥太先輩は、まだノートを読み込んでいる。瑠可先輩はというと、とうとうスマホゲームを始めたようだった。
「じゃあ、書いてみますね!」
そうしてあたしは、エレノアの物語を紡ぎ始めた。