三人の男の先輩に対して、あたしは切々と悪役令嬢について語った。語りすぎた。最終下校のチャイムが鳴ったのだ。快人先輩が言った。

「まだお話は尽きないようですが……帰りましょうか?」
「あっハイ! 喋りすぎました!」

 あたしはそのまま、三人と一緒に駅に向かった。

「その、なんつーか、情熱はよくわかった」

 瑠可先輩は、げんなりとした顔をしていた。正直まだ語り足りないのが本音だったが、続きを話すのはやめておいた。祥太先輩が聞いてきた。

「優衣ちゃん、どっち方面?」
「あたしは三番線です」
「じゃあ快人と一緒かぁ、ずるいなぁ」

 どうやら、瑠可先輩と祥太先輩とはホームが分かれるらしい。あたしは二人にさよならを言い、快人先輩と並んで電車が来るのを待った。

「僕は興味が出てきましたよ。あなた自身だけでなく、悪役令嬢にも」
「良かったです!」
「最初はどうしようかと思いましたけどね。今年も入部者はゼロだと思っていましたから」

 そうして、快人先輩は、文芸部結成について語ってくれた。
 去年、彼らが一年生だったとき、廃部となってしまった文芸部を再興してくれないかと教師から頼まれたらしい。唯一読書をたしなむ快人先輩がそれを了承し、暇そうな二人を誘ったのだと。

「瑠可先輩、ピアス開けすぎじゃないですか?」
「痛々しいですよねぇ。まあ、それが彼の趣味ですから」
「祥太先輩の髪の色、あれで大丈夫なんですか?」
「いえ、全く。度々呼び出されていますよ?」

 電車がホームに入ってきた。満席だったので、あたしと快人先輩は立ったまま話の続きをした。

「彼ら、いかにも不良っぽい出で立ちでしょう? なもんで、僕みたいな男子とつるんでいるのが不思議に思える人たちも居るみたいでして」
「ああ、わかります。快人先輩って頭良さそうですもんね」
「学業なら、実は祥太が一番なんですよ? 毎回学年トップですから」
「い、意外!」

 降りる駅は、あたしの方が先だった。あたしは快人先輩に別れを言って、電車を降りた。
 それにしても、今日は本当に色々あった。念願の文芸部に、何とか入ることができたのだ。悪役令嬢の布教もできた。エレノア、待っててね。もうすぐ、あなたの物語を始めることができるから。
 帰宅したあたしは、夕食を早々と食べ終わり、ノートを開いた。下手くそではあるが、エレノアのバストアップの絵を自分で描いている。艶々とした黒髪の彼女の表情は、不敵に笑う悪役そのものだが、根は優しくて涙もろい女の子なのだ。

「さーて、設定書き加えちゃおうかな!」

 あたしは新しいページを開き、あふれ出るイメージを次々と言葉にしていった。