三人目の先輩は、金髪だった。ここの校則だと、脱色は認められていないはずだが、ともかく彼は襟足長めの髪をブリーチしていた。背は高く、垂れ目だ。

「なになに? もしかして入部希望者?」
「そうですよ。説明はあらかた済ませました」
「おれ、小島祥太(こじましょうた)! 女の子が入ってくれると嬉しいなぁ。野郎三人でたむろしててもつまんなくなってきたからさ!」

 祥太先輩は、後ろからあたしの両肩を掴んできた。さっきの瑠可先輩といい、ボディータッチが激しい人々だ。ああ、快人先輩は違うか。この二人の距離感がおかしいのだ。

「あ、あたし、入りません!」

 意を決してそう叫んだが、距離感のおかしい二人は食い下がってきた。

「いいだろ、優衣。小説の書き方とかはよくわかんねーけど、この部室で過ごすのも悪くないぞ?」
「へえ、この子優衣ちゃんっていうんだ。名前も可愛いね!」
「おい祥太。お前の好みは黒髪ロングだろ?」
「そーだけど、優衣ちゃんみたいなショートの子も良いなって今気付いた!」

 祥太先輩に肩を掴まれたまま、あたしは身動きできずに彼らの言い合いを聞いていた。快人先輩はというと、長机の向こうでただただニッコリと微笑んでいた。

「僕も優衣さんには興味が出てきました。いかがですか? 小説の書き方なら、僕たちも一緒に勉強しますし」

 そんなことまで言われてしまっては、どうしようもない。しかし、キッパリと自分の要求を通さなくては。あたしは快人先輩に向かって言った。

「本当に、小説書くの手伝ってくれますか? あたし、本気なんです!」
「ええ、僕も本気ですよ?」

 快人先輩の、メガネの奥の瞳が美しくきらめいた。怒涛の展開で上手く反応できずにいたが、この三人、全員、顔立ちが整っている。それに気付いたあたしは、少々恥ずかしくなってきた。本当に彼らとやっていけるのだろうか?

「おれも手伝う! ねえ優衣ちゃん、入ってよー」
「俺だってその、悪役令嬢? ってやつ勉強してやるからよ」

 あたしはエレノアの事を思った。まだノートの中の設定だけの彼女のことを。思い描いていた形とは少し、いや、かなり違ったけど、彼女の物語を紡ぐために、ここは飛び込んでみるべきではないだろうか?

「……入ります!」
「わかりました。では、入部届の用紙を準備しますね。一応僕、部長ですし……」

 そうして快人先輩の言う通り、入部届に名前を書いた。

「優しい衣かぁ、ぴったりの名前だね」

 祥太先輩があたしの名前を褒めてきた。肩からはもう手は離れていた。

「そ、そうですか?」
「悪役令嬢モノが好きだなんて、いかにも女の子っぽいし」
「悪役令嬢のこと分かりますか!?」

 あたしはつい声を大きくした。

「まあ、そういうジャンルが女の子に人気ってことくらいは知ってるよ?」
「ありがとうございます! 素晴らしいんですよ、悪役令嬢モノは!」

 それからあたしは、悪役令嬢のどこが好きか、どういった物語を作りたいのかを、彼らに語りだした――。