入ってきたのは、背の低い男の先輩だった。黒髪から、十個くらいはあろうかという大量のピアスが覗いていた。目付きは鋭く、威圧的だ。

「ああ、彼女は入部希望者ですよ」
「マジかよ! マジで文芸やりたい奴とか居たんだ!?」

 大量ピアスの先輩は、ツカツカとあたしの方に近付いてきて、身をかがめ、真正面からあたしの顔をじっと見てきた。こんなに近距離で男の先輩と見つめ合ったことなんてないから、あたしは緊張した。

「へえ、なかなか可愛いじゃん。快人、入れてやってもいいんじゃね?」

 初対面の先輩に可愛いと言われてしまうと、さすがのあたしでも照れる。しかし、態度がいささか失礼じゃないかと思ったあたしは、その先輩に食ってかかった。

「な、なんなんですか!」
「あ、俺、高田瑠可(たかだるか)。瑠可先輩でいいぞ」

 瑠可先輩、は目を細めて笑った。目つきが悪いだけで、愛想が悪いわけではないらしい。なのであたしも反射的に名乗った。

「えっと……浅川優衣です」
「優衣な。よろしく」
「瑠可。まだ彼女は入ると決めたわけではありませんよ?」

 快人先輩がそう言うと、瑠可先輩はあたしの頭を撫でてきた。

「入れちゃおうぜー。こういう、ショートカットの似合う、目ぇパッチリした女の子、俺好みだし」

 あたしは瑠可先輩にされるがまま。さっきから、展開が早すぎてついていけない。とにかく、この先輩に妙に気に入られてしまったことは分かった。あたしは助けを求めるかのように、快人先輩の方に目をやった。それに気付いてくれたのか、彼は瑠可先輩を制してくれた。

「やめなさい。優衣さん、困っているでしょう?」
「はぁい」

 ようやく頭から手を話してくれた瑠可先輩は、快人先輩に向き直った。

「それでさ、快人。ここが文芸部としての実態が無いって話、もうしたわけ?」
「しましたよ。だから、優衣さんも迷っているようです。彼女は本気で小説を書きたいそうですから」
「マジで?」

 あたしは一応、瑠可先輩にも説明すべきかと思った。

「あたし、悪役令嬢モノが好きで、それを書きたいんです」
「……なんだそれ?」

 やっぱりこの人も、悪役令嬢が何かを分かってくれていなかった。つい語りだしそうになる心を止め、あたしは息をついた。可愛いやら、俺好みやら、嬉しい言葉を沢山言われたが、あたしの目的は小説を書くことなのだ。ここはあたしの居るべき場所ではない。
 そう思い直し、やはり入部は断ろうとしたときだった。

「ごめんごめん、日直長くなった!」

 三人目の先輩が、やってきてしまったのである。