瑠可先輩と一緒に部室へ行くと、他の二人が心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。きっとウサギのように目を赤くしていたのだろう。事の次第は、瑠可先輩が話してくれた。

「そうですか、そんなことが……」

 快人先輩はメガネのフチに手をかけ、厳しい表情をした。

「おれ、絶対許さない! 瑠可、そいつら誰だった?」
「俺もよくわかんねぇよ、祥太。優衣以外の女子って頭に入ってないし」
「絶対おれからも一言言ってやりたい!」
「よしなさい。余計に事がややこしくなりますから」

 あたしはパイプ椅子にすとんと腰をおろし、先輩たちがああだこうだと言い合うのを見つめていた。こうして、あたしのために三人が怒ってくれているのが、正直とても嬉しい。それほどまでに、さっきのあの二人はこわかったのだ。
 ただ、小説にかける思いをぶちまけておいて良かった。ああして言葉にすることで、エレノアへの愛情を再確認することができたからだ。やっぱりあたしは、悪役令嬢、いや、エレノアのことを愛しているのだ。

「なあ、優衣。この際だからハッキリしておこうか」

 瑠可先輩が、真面目なトーンでそう告げた。

「はい……何でしょう?」
「優衣は一体、誰の事が一番好きなんだ?」

 あたしの頭は真っ白になった。そんなこと、いきなり聞かれるだなんて思っていなかった。心の準備というものがある。あたしは押し黙り、目を瞑った。そして浮かんだ、一人の名前を、ゆっくりと口に出した。

「……エレノアです。やっぱり、主人公である彼女のことが一番好きです。アンやジュールといったキャラクターにも愛着はありますけど、結局一番愛しているのはエレノアなんです!」

 シーンとその場が静まり返った。なんだろう。よく分からないけど、良くない返答をしてしまったような気がする。でも、どう考えても一番はエレノアだ。それは揺るがない。彼女は、中学生のときからあたしの傍に居てくれたのだ。彼女の事が最も好きだし、大事だと思っている。

「……ははっ」

 最初に声を漏らしたのは、祥太先輩だった。

「そうだった。優衣ちゃんって、そういう子だった。だからおれ、優衣ちゃんのこと好きなんだよね!」
「おい祥太。俺だって、優衣のこと好きだぞ?」
「二人とも、僕のこと忘れてません? 僕も優衣さんのことが好きです」

 先輩たちが口々にそう言ってくれるので、あたしはすっかり心が晴れてきた。そうだ、あたしはこのままで良いんだ。エレノアのことが大好きなあたしのことを、先輩たちは認めてくれている。だから、あたしも心を尽くしてこう言った。

「あたしも、先輩たちのことが大好きです! これからも、あたしとエレノアのことを見守っててくださいね!?」

 大真面目にそう言ったのに、三人ともケラケラと笑い出した。きっと、小説バカであることを可笑しく思われたのだろう。
 でも、それでいい。これからもあたしは、この文芸部で、エレノアの物語を作り上げていく。そしていつか、書籍化してみせる。そう決意を新たにし、あたしは大好きな先輩たちに向けて精一杯の笑顔を送った。