夏休みが明け、二学期がやってきた。やっとの思いで宿題を終わらせ、あたしは軽い足取りで放課後の部室に行こうとしていた。

「ちょっと、そこの一年生」
「は、はい!?」

 声をかけられたのは、二年生の女子二人組だ。そのどちらにも面識は無い。あたしが戸惑っていると、無理やり校舎裏まで付き合わされ、話をされた。

「文芸部に入り浸ってるのってあんたよね?」
「その……部員なので、当然ですけど」

 二人の女子は、あたしをジトリと睨みつけている。どうしよう。こわいが逃げるのもこわい。ここは大人しく、彼女らの話を聞くしかない。

「誰が目当てなの?」
「まさか三人全員? 感じわるーい」
「えっ!? 誰が目当てとか、そんなの無いですよ!?」
「嘘ついてんじゃないわよ!」

 どうしよう。彼女たちは、とんでもない誤解をしているようだ。ここはきっちりと解いておかないと、先輩たちにも迷惑がかかるだろう。だからあたしは言った。

「嘘なんかじゃありません! あたしは本気で小説が書きたくて、文芸部に入っているんです! 現に、三十三話まで書き終えました!」
「はぁ? あんたの小説の話なんかどうでもいいっつーの」
「どうでもよくないです! あたしは真剣に、悪役令嬢モノを愛しているんです!」

 そこへ、鋭く低い声がかかった。

「お前ら、何してんの?」
「る、瑠可くん……」
「瑠可先輩!」

 相当苛立っているのだろう。瑠可先輩の顔から、いつもの柔和な笑みは消えており、二人の女子たちを威嚇するかのように舌打ちをした。

「うちの優衣に文句つけんなよ。それにお前ら関係ないだろーが」
「そ、そうだね。ごめんね? 瑠可くん」
「謝るんなら優衣に謝れよ」
「ご、ごめんなさい!」

 蜘蛛の子を散らすように、二人は駆けていった。取り残されたあたしは、心臓をバクバクさせながら、瑠可先輩と対面した。彼の顔は、いつも通りに戻っていた。

「その、ありがとう、ございます」
「いいって。っていうか、ごめんな? 俺、最初から聞いちまってて、ずっと出るタイミング伺ってたの」
「そうだったんですか!? もっと早く助けて下さいよ!」
「いやぁ、優衣がどこまでやれるのか、確かめたくてさ。よく言えたな、小説に対して本気だって。偉いぞ、優衣」

 そう言って瑠可先輩は、あたしの頭を撫でてくれた。そうされると、我慢していたものが溢れだしてしまった。

「おい、泣くなよ……。まるで俺が泣かしてるみたいじゃねぇか」
「ひぐっ……だって……」
「あーもう泣きたいだけ泣け。なっ?」

 トントンと優しいリズムで肩を叩かれ、あたしはようやく泣き止むことができた。