合宿が終わり、あたしは学業と作家業の両立に追われていた。なんて言うと偉そうだけど、要するに宿題が大変だったのだ。
 あたしの小説には、最低でも三つの閲覧数がついていた。もちろん先輩たちだ。物語は、アンが暴漢に襲われ、エレノアが華麗に救い出すところまで来ていた。
 それにしても、本当に勉強がはかどらない。迷った挙句、あたしは祥太先輩に助けを求めることにした。彼の成績が学年トップだという快人先輩の言葉を思い出したのだ。

「優衣ちゃんの方から誘ってくれるなんて、嬉しいよ!」

 図書館前で落ち合った祥太先輩は、満面の笑顔を見せた。

「どうぞ、よろしくお願いします!」

 あたしたちは閲覧スペースに向かい、そこで主に数学の宿題を見てもらった。

「どれどれ? これは……うん、最初の公式の当てはめ方が間違ってるね。だから全部ずれる。一つ前の単元に戻ろうか?」
「はい!」

 祥太先輩の教え方は、決して分かりやすいとは言えなかったが、それでも懸命に何とかしてくれようとしてくれるのが分かった。それがとても有難かった。祥太先輩だって、自分の宿題があるはずなのに。

「ふう……休憩しよっか。カフェかどこかに行く?」
「あっ、はい!」

 二時間ほど経ったころ、祥太先輩がそう言うので、図書館の隣にあるカフェへ二人で向かった。あたしはアイスコーヒーを、祥太先輩はカフェラテを注文した。

「なんか、ごめんな? おれ、勉強分からない人の気持ちがよく分かんなくてさぁ……」
「いえいえ、とんでもないです!」
「おれさ、元々もっと上のレベルの高校目指してたの。それが全落ちして、ここに来たってわけ」

 なるほど、それなら祥太先輩の学力の高さも納得だ。

「あたしは結構無理してここ受けたんですよね。だからちょっと、しんどくて」
「そっか。そもそも、どうしてうちの高校を志望したの?」
「文芸部があると聞いていたからです」
「あ……そっかぁ」

 祥太先輩は眉根を下げ、カフェラテを一口飲んだ。

「優衣ちゃんにとって、小説って本当に大事なものなんだね。おれ、それもよく分かんなくてさぁ」
「いえいえ、いいんです。義理でも何でも、読んで頂いているんですから」
「それで、これからエレノアはどうなるわけ?」
「よくぞ聞いてくれました!」

 それからあたしは、今後の展開について祥太先輩に話した。騎士団長のセオや幼馴染のアランが絡んできて、余計にエレノアの周囲がややこしくなるといった筋書きだ。

「その、アランっていうのはずっとエレノアのことが好きだったの?」
「そうなんです。小さい頃から一途に想っているんですよ。それがまた泣けるんですよねぇ」

 勉強の話は祥太先輩とはレベルが合わなさすぎるが、小説のことならいくらでも言える。
 あたしは、アイスコーヒーが尽きた後も、アランのことについて彼に喋りまくった。そうして、スッキリとした気分になってから、また少しだけ宿題を手伝ってもらい、その日は図書館で別れた。