花火が終わり、お風呂に入った後、あたしはノートパソコンに向かった。余韻が冷めやらぬ内に、ある程度まで書き進めておきたかったのだ。
 しばらくして、喉の乾きに気付いた。時計を見ると、もう日付は変わってしまっていた。そんなになるまで熱中していたことに我ながら驚いた。やはり、いつもと違う環境での執筆ははかどるものなのだ。
 あたしは自分の部屋を出ると、キッチンスペースに向かった。確か、冷蔵庫にジュースか何かがあるはずだ。
 すると、リビングのソファに、快人先輩の姿があった。

「優衣さん。まだ起きていたんですね?」
「快人先輩こそ。他のお二人は?」
「もうぐっすり眠っていますよ」

 あたしは快人先輩の隣に座った。ちょっとだけ、話をしたかったのだ。

「あの、快人先輩。今回は本当にありがとうございます。お陰で物語も進みました」
「それは良かった」

 快人先輩は、マグカップを持っていた。かぐわしい匂いがする。これはきっとハーブティーだ。

「これ、本当は瑠可の趣味なんですよ。僕も影響されましてね」
「そうなんですか? 瑠可先輩はてっきりコーヒー派かと」
「彼はコーヒーも好きですけどね。祥太はこういうの、苦手みたいです。優衣さんは? 良かったら一杯どうです?」
「ぜひ!」

 実を言うと、ハーブティーなんて飲んだことが無いのだが、未知なる領域に踏み込みたくてあたしはそう言った。
 ほどなくして、快人先輩があたしの分を作って持ってきてくれた。

「わあっ……これ、何て言うお茶ですか?」
「カモミールですよ。リラックスや安眠の効果があります」

 あたしはマグカップを持ち、こくりと飲み込んだ。柔らかくて、今まで味わったことのない美味しさだ。何となく、体のコリも取れていくような気がした。

「すっごく美味しいです、快人先輩!」
「でしょう?」

 それからあたしたちは、日中の振り返りをした。川遊びでは、全員びしょ濡れになったこと。花火があっという間に消費されてしまったこと。

「去年よりも、もっと楽しい一日を過ごせましたよ。これも全部、優衣さんのおかげですね」
「そんなことないです。むしろ、三人の間に割って入ったような気がして……」
「そういう風に考えていたんですか? むしろ逆ですよ。優衣さんが居たから、僕たち三人もより仲良くなれた気がします」

 快人先輩は誠実な人だ。これまでの付き合いで、それは十分すぎるほど分かっていたから、ここでも素直な気持ちを話してくれたのだと思いあたしは嬉しくなった。

「これからも、よろしくお願いします」
「もちろんですよ」

 そしてあたしは、快人先輩と二人っきりになってしまっているという状況に今さら気付き、少し緊張し始めた。それをほぐそうと、またマグカップに口をつけた。
 すると、快人先輩はこんな話を始めた。

「瑠可も祥太も、あの見た目でしょう? だから、近寄り難い印象があるらしくて」
「あたしも第一印象はそうでした」
「ふふっ、そうでしょう? だから、新しく仲良くしてくれるメンバーが増えたことは、僕としても喜ばしいことなんですよ」

 快人先輩という人は、本当にあの二人のことが好きなのだ。そして、もちろん、あたしだってこの四人で居ることが好きだ。だからハッキリと宣言した。

「あたし、文芸部に入って良かったです」

 満足そうに頷いた快人先輩は、あたしのマグカップが空になるまで待ってくれた。そうして、合宿の夜は終わった。