期末テストが終わり、夏休みに入った。あたしは宿題もそこそこに、父のパソコンを借りて、エレノアの物語を書き進めていった。
***
とうとうこの時が訪れた。アンとの初対面だ。ゲームの中でのエレノアのセリフは、確かこうだ。
「平民の分際で、この学園に入るなんて。なんて汚らわしい!」
だけど、私は決めていた。ヒロインであるアンを虐めるのではなく、守るのだ!
「貴方……確か、アンさんよね?」
「はっ、はい!」
アンは背筋を伸ばし、私に向き直った。出来るだけ表情は柔らかくしようと努めているけど、元々の気迫やつり上がった目つきはどうしようもない。彼女はヘビに睨まれた小鳥のようにびくびくしていた。可哀そうに。
「わたくしは、エレノア・フォンティーヌ。平民の身分でこの学園に入るとなると、相当のご覚悟があったことでしょう。これから、困ったことがあれば、何でもこのわたくしに言ってちょうだいね?」
「あ、ありがとうございます! エレノア様!」
「もう、この学園では同級生同士なんだから、様なんてつけなくてもよろしくてよ?」
「では……エレノアさん。よろしくお願いいたします」
ふうっ、上手くいった。私は一息ついた後、キッと周囲を見回した。このやり取りを見ていた輩たちが、あらぬ想像をしないためだ。
「皆さまも、平民だからといってアンを冷遇しないことよ? もし、彼女に冷たくあたるようなら……分かっていますわね?」
そう言って、釘も刺しておいた。これで、アンは私の庇護下に置かれたわけだ。私は扇子をパタパタとはためかせ、とりあえずその場を立ち去った。
ああ、緊張した! ゲームとは違う行動を取ることもそうだが、アンの可愛さに緊張した!
黄金色の鮮やかなストレートのロングヘアーに、蒼く澄んだ瞳。身長は、エレノアと違ってやや低めだ。まさにヒロイン、といった出で立ちの美少女なのだ。
ゲームでのエレノアは、きっとそんな彼女に嫉妬したんだろう。でも私はそうじゃない。これからの学園生活、懸命にアンを守ってみせる!
***
「やっとここまで書けたー!」
あたしは父の部屋で一人叫び、腕をぐるぐると回した。長いことパソコンに向かっていたから、肩がこっていた。
ネットでの閲覧数は、相変わらず低いままだが、少なくとも三人は固定読者が居る。そのことが心強かった。
さあ、アンが登場してからが本場だ。ここから物語はもっと面白くなるはず! いや、させてみせる!
そう息巻いたあたしは、もう少しキリのいいところまで筆を進め、最新話を投稿した。
すると、意外な人物からメッセージが来た。瑠可先輩だ。
「小説頑張ってるな。合宿でする花火、一緒に買いに行かないか?」
頑張ってる、じゃなくて感想が欲しいのだが、瑠可先輩にそれを求めても無駄なのでそれは言わないでおく。
「分かりました! いつにするか、快人先輩と祥太先輩にも聞いて、スケジュール合わせますね!」
後輩なのだから、こういった調整も引き受けるべきだろう。あたしはすぐさま二人にもメッセージを送った。
「いや、二人でっていう意味だったんだけど?」
そんな返答が瑠可先輩から来たのだが、もう他の二人に送ってしまったのだから仕方ない。彼も言葉が足りない人だ。
結局、四人で一緒に花火を買い、合宿の準備は着々と進んでいった。
***
とうとうこの時が訪れた。アンとの初対面だ。ゲームの中でのエレノアのセリフは、確かこうだ。
「平民の分際で、この学園に入るなんて。なんて汚らわしい!」
だけど、私は決めていた。ヒロインであるアンを虐めるのではなく、守るのだ!
「貴方……確か、アンさんよね?」
「はっ、はい!」
アンは背筋を伸ばし、私に向き直った。出来るだけ表情は柔らかくしようと努めているけど、元々の気迫やつり上がった目つきはどうしようもない。彼女はヘビに睨まれた小鳥のようにびくびくしていた。可哀そうに。
「わたくしは、エレノア・フォンティーヌ。平民の身分でこの学園に入るとなると、相当のご覚悟があったことでしょう。これから、困ったことがあれば、何でもこのわたくしに言ってちょうだいね?」
「あ、ありがとうございます! エレノア様!」
「もう、この学園では同級生同士なんだから、様なんてつけなくてもよろしくてよ?」
「では……エレノアさん。よろしくお願いいたします」
ふうっ、上手くいった。私は一息ついた後、キッと周囲を見回した。このやり取りを見ていた輩たちが、あらぬ想像をしないためだ。
「皆さまも、平民だからといってアンを冷遇しないことよ? もし、彼女に冷たくあたるようなら……分かっていますわね?」
そう言って、釘も刺しておいた。これで、アンは私の庇護下に置かれたわけだ。私は扇子をパタパタとはためかせ、とりあえずその場を立ち去った。
ああ、緊張した! ゲームとは違う行動を取ることもそうだが、アンの可愛さに緊張した!
黄金色の鮮やかなストレートのロングヘアーに、蒼く澄んだ瞳。身長は、エレノアと違ってやや低めだ。まさにヒロイン、といった出で立ちの美少女なのだ。
ゲームでのエレノアは、きっとそんな彼女に嫉妬したんだろう。でも私はそうじゃない。これからの学園生活、懸命にアンを守ってみせる!
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「やっとここまで書けたー!」
あたしは父の部屋で一人叫び、腕をぐるぐると回した。長いことパソコンに向かっていたから、肩がこっていた。
ネットでの閲覧数は、相変わらず低いままだが、少なくとも三人は固定読者が居る。そのことが心強かった。
さあ、アンが登場してからが本場だ。ここから物語はもっと面白くなるはず! いや、させてみせる!
そう息巻いたあたしは、もう少しキリのいいところまで筆を進め、最新話を投稿した。
すると、意外な人物からメッセージが来た。瑠可先輩だ。
「小説頑張ってるな。合宿でする花火、一緒に買いに行かないか?」
頑張ってる、じゃなくて感想が欲しいのだが、瑠可先輩にそれを求めても無駄なのでそれは言わないでおく。
「分かりました! いつにするか、快人先輩と祥太先輩にも聞いて、スケジュール合わせますね!」
後輩なのだから、こういった調整も引き受けるべきだろう。あたしはすぐさま二人にもメッセージを送った。
「いや、二人でっていう意味だったんだけど?」
そんな返答が瑠可先輩から来たのだが、もう他の二人に送ってしまったのだから仕方ない。彼も言葉が足りない人だ。
結局、四人で一緒に花火を買い、合宿の準備は着々と進んでいった。