季節が進み、段々暑くなるにつれて、あたしの執筆意欲も燃えてきた。エレノアの物語の構想が、どんどん進んできたのだ。
 エレノアに転生した主人公は、どうせ婚約破棄されるのなら、とアンが登場する前に、ジュールから嫌われようと画策する。そして、乗馬や武芸に励むのだが、そのせいで騎士団長のセオとのフラグが立ってしまい、ついでに幼馴染のアランとの仲も進展してしまう、といった寸法だ。
 そして、アンが登場してからは、彼女を虐めるのではなく守る立場に徹する。そうすると、何故かジュールからの株も上がってしまい、婚約破棄されるどころかますます好かれてしまう……そんなストーリーを思いついたのである。

「ねえねえ、どう思いますか!?」

 七月上旬。クーラーの効いた部室で、あたしは先輩たちに詰め寄っていた。このプロットで突き進んでもいいのかどうか、確かめたかったのだ。

「別に、いいんじゃね?」

 瑠可先輩は、スマホから目を離さずにそう言った。

「おれもいいと思う! コメディタッチでいく感じ?」
「そうです、祥太先輩!」
「明るい物語の方が、読者層も厚くて良さそうですね」
「そうでしょう! 快人先輩!」

 一人は至って興味なさげだが、二人からは快くゴーサインを貰えた。あたしは続きを書くべく、ノートパソコンに向かった。少しずつだが、タイピングも早くなってきて、あたしの思う通りの文章がキーボードから生まれていった。

「それよりさ、夏休みどうする? 去年みたく合宿するか?」

 合宿。確かに瑠可先輩はそう言った。

「合宿って何ですか?」

 答えてくれたのは、快人先輩だった。

「去年、うちの別荘に二人を泊めたんですよ。高原にありましてね。何も無いところですけど、確かに執筆にはうってつけかもしれませんね」
「良いですね! ぜひやりましょうよ!」

 あたしの心は踊った。夏季休暇に別荘で小説を書くだなんて、いかにも作家っぽくて素敵じゃないか。しかし、とあたしは思った。

「ただ、その間先輩たちは何してるんですか? っていうか、去年は何してたんですか?」

 祥太先輩が答えてくれた。

「去年はね、川遊びして、夜は花火したな! 野郎三人で!」
「あれも良かったですけど、今年はより楽しみが増えましたね。優衣さんが居るんですから」

 快人先輩は、泊めてくれる気満々だ。あたしはガッツポーズをした。

「じゃあ、良いんですね!?」
「もちろんですよ。日にちはどうしましょうか……」

 とんとん拍子に話は進み、八月上旬に「合宿」が開かれることになった。