文化系の部室があるのは、この高校の東棟。放課後、そこに向けて、あたしはゆっくりと歩を進めた。
入る部活は決まっている。
文芸部だ。
あたしはずっと、物語を書いてみたかった。今はまだ、設定をノートにまとめているだけだけど、文芸部にさえ入れば、きっと執筆ができるはず。
一緒に入る友人は居ない。たった一人で、この部室の扉を叩かねばならない。
部室の前まで来たあたしは、入念にリップクリームを塗った。それから、すうっと息を吸い込み、吐き出した。
「失礼します」
文芸部の扉を叩くと、男の人の声がした。
「どうぞ」
あたしは思い切って、引き戸を開けた。
そこに居たのは、まさに文芸部にぴったりの出で立ちの男の先輩だった。栗色の髪に、色素の薄い肌。黒いフチのあるメガネをかけていて、手には文庫本を持って長机の向こう側に座っていた。
「えっと……もしかして、入部希望ですか?」
「はい!」
「じゃあ、とりあえず、そこに座って下さい。色々、説明しないといけませんから」
長机を挟んだ、その先輩の真正面の席にあたしは座った。どうしよう、ドキドキが収まらない。これがあたしの、華々しい執筆生活の第一歩となるのだ。
きっと歓迎されているものと思い込んでいたあたしは、その先輩が放った次の一言に耳を疑った。
「困りましたねぇ。まさか、入部希望者が現れるなんて……」
「へっ?」
あたしは間抜けな声を漏らした。
入る部活は決まっている。
文芸部だ。
あたしはずっと、物語を書いてみたかった。今はまだ、設定をノートにまとめているだけだけど、文芸部にさえ入れば、きっと執筆ができるはず。
一緒に入る友人は居ない。たった一人で、この部室の扉を叩かねばならない。
部室の前まで来たあたしは、入念にリップクリームを塗った。それから、すうっと息を吸い込み、吐き出した。
「失礼します」
文芸部の扉を叩くと、男の人の声がした。
「どうぞ」
あたしは思い切って、引き戸を開けた。
そこに居たのは、まさに文芸部にぴったりの出で立ちの男の先輩だった。栗色の髪に、色素の薄い肌。黒いフチのあるメガネをかけていて、手には文庫本を持って長机の向こう側に座っていた。
「えっと……もしかして、入部希望ですか?」
「はい!」
「じゃあ、とりあえず、そこに座って下さい。色々、説明しないといけませんから」
長机を挟んだ、その先輩の真正面の席にあたしは座った。どうしよう、ドキドキが収まらない。これがあたしの、華々しい執筆生活の第一歩となるのだ。
きっと歓迎されているものと思い込んでいたあたしは、その先輩が放った次の一言に耳を疑った。
「困りましたねぇ。まさか、入部希望者が現れるなんて……」
「へっ?」
あたしは間抜けな声を漏らした。