私の名前は神藤文香。都立回文中学校に通う二年生だ。
趣味は読書で、休み時間もいつも本を読んでいる。一人の時間の方が好きだけど、別に孤立しているわけではない。仲の良い友達はいるし、家に帰ってからやお休みの日に、メッセージのやり取りや電話をしたりもする。
だけど私は、どんなに仲の良くとも、友達と一緒に遊びに出かけたりはしない。前はよく、放課後や週末に遊びに行かないかと誘われたりもしたけど、何度か断っているうちに誘われることはなくなった。私が元々一人で静かに読書を楽しむキャラクターだったこともあって、無理に誘うのは良くないと配慮してくれたみたいだ。失礼なのは私の方なのに、変わらず仲良くしてくれる皆には本当に感謝している。
「朋絵。帰りにどっか寄っていこうよ」
「良いね。どこにする?」
昼休みに入ると、クラスメイトの夏奈さんと朋絵さんのそんなやり取りが聞こえてきた。朋絵さんは一時期、何だか元気が無くなっていたけど、最近は元気を取り戻し、親友の夏奈さんと毎日楽しそうに過ごしている。時々、トイレから戻ってくると少しキャラが変わっている時があるような気もするけど、たぶん考えすぎだと思う。
「マリナ。日曜って用事ある? 時松先輩とデートならそっち優先でもいいけど」
「日曜は牧人とは約束してないから大丈夫だよ。前に言ってた映画?」
「うん。せっかくなら二人で見に行こうよ」
「いいよ」
別の席ではマリナさんと寧音さんが週末の予定を相談している。二人は本当に仲が良くて、マリナさんは恋人の時松先輩と同じぐらい、親友の寧音さんを大切にしている。一時期、マリナさんのそっくりさんが目撃されているという噂を聞いたこともあったけど、最近はすっかり聞かなくなった。
「私もたまには……」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。本当は私も彼女たちみたいに、放課後や週末に仲の良いクラスメイトと遊んでみたい。読書する時間が好きなのは本当だけど、一人を好むのは、遊びのお誘いを断るための理由として、キャラを演じている部分も多い。
仲の良いクラスメイトはSNSをしている子が多いし、それを抜きにしても、思い出として写真を撮る流れになる可能性は十分に考えられる。
私は写真に写ることが出来ない。写真撮影のたびに、写れないと断るよりは、一人を好むキャラを作って、始めから集まりに参加しない方がマシだと思ったから、友達とは学校では仲良くしながらも、それ以外の場所では一緒に行動しないという形をとっている。
私は別に、写真に苦手意識や恐怖を抱いているわけではない。あなたは写真に写ってはいけないと、小さいころから母に言いつけられてきた。
母は決して厳しい人ではない。心優しい自慢の母親だと思っている。だけどそんな母が、私が写真に写るという行為に対してだけは、異常なまでの厳しさを見せる。写真に写るリスクがあるからと、学校行事は決まって休まされている。母が先生と直接交渉しているようで、私が直接先生や学校側から欠席の理由を聞かれたことはない。この様子だとたぶん、来年の修学旅行も欠席になるんだろうな。
母の言うことだからと、小さいころは疑問も持たずにその通りにしていきた。だけど私ももう十四歳だ。最近は疑問を感じている。
写真に写らないで私と言い聞かせる時の母は、厳しいと同時に、何かの恐怖に怯えているようにも見えた。何が母にそこまでさせるのか。どうして私は写真に写ってはいけないのか。その理由を私は知りたい。
※※※
夕方。家に帰ると郵便受けに何通か郵便が届いていたので、回収してから玄関の鍵を開けた。
「ただいま」
母はまだ仕事から帰っていないので、家の中から返事はないけど、おばあちゃんと一緒に暮らしていた時の名残でいつも「ただいま」と言ってしまう。この家は母の実家で、父と離婚してから戻ってきたらしい。私は幼かったので、そのころの記憶はまったく無いけども。母の両親、おじいちゃんは私が生まれよりも前に亡くなっている。前はおばあちゃんとも一緒に暮らしていたけど、半年前からは老人ホームに入所している。今この家は母と私の二人暮らしだ。
「そういえば、おばあちゃんも私に、写真に写るなって言ってたっけ」
感情的だった母とは違い、おばあちゃんは優しい言い方だったけど、写真に写らないように何度か注意を受けたことを覚えている。ということは、あれは母一人の感情ではなくて、神藤家としての意志ということになるのかな……ますます意味が分からない。カメラが珍しかった時代には、写真を撮られると魂を抜かれるという迷信が流行っていて、写真に写りたがらない人も多かったという話を聞いたことがあるけど、まさか科学が発展した現代で、母やおばあちゃんが写真の迷信を信じていたとも思えない。
「せめて理由ぐらい言ってくれればいいのに」
リビングのテーブルに郵便物を置くと、私の視線は自然と、廊下の向こうにある和室へと向いた。私は写真に写ること以外にも、和室へと立ち入ることを母から禁じられている。
私は亡くなったおじいちゃんのお仏壇に線香を供えたことがない。仏壇を見かけないということはたぶん、私が一度も入ったことのない和室に置かれているのだと思う。私に立ち入りを禁じながらも、母やおばあちゃんは和室に出入りしていた。おじいちゃんの仏壇が置かれているのだとして、どうして私はあの部屋に入ってはいけないのだろう? 生まれる前に亡くなっていて顔も知らないけれど、おじいちゃんも私の大切な家族だ。私だってお線香を供えたいのに。
どうして写真に写ってはいけないのか。どうして和室に入ってはいけないのか。例えどんな理由だったとしても、母の言うことなら全て受け止められるのに……何も知らされずにモヤモヤしている今の状態が一番つらい。
写真について母に聞くのは心の準備がいるけど、和室がどうなっているのかは、今すぐにでも確かめることができる。このままモヤモヤしているぐらいなら思い切って……。
「……やっぱりやめておこう」
廊下まで出たけど、けっきょくリビングまで引き返した。何だか嫌な予感がして、あと一歩のところで勇気が出なかった。
気を紛らわせるために、届いていた郵便物を確認することにした。私宛に届いていたのは、歯医者の定期健診のお知らせのハガキだけで、残りは母宛てに届いた郵便物だった。ほとんどが行政や企業からのお知らせだったけど、その中に一通だけ、個人で送ったと思われる手紙が混ざっていた。差出人の名前は……。
「茅崎早矢佳?」
手紙には茅崎早矢佳という名前が書かれていた。初めて目にする名前のはずなのに、すんなりと読むことが出来た。読むのが難しそうな早矢佳も、自然と男性の名前だと理解した上で一発で読むことが出来ていた。私はこの名前を、この男の人のことを知っている。
「ごめん。お母さん」
これは母に届いた手紙だ。娘だからと、私が勝手に中身を見てはいけない。頭ではそう分かっていても、私は封を切る手を止めることが出来ない。私の中の遺伝子がそうさせているような気がした。
『連絡してはいけないと分かってはいるが、どうしても一つだけ報告をしたくて手紙を送った。約束を破ったのは私の方だ。この手紙が読まれずに捨てられたとしても、私は君を恨まないよ』
「お父さん?」
小さい頃に両親は離婚して、お父さんのことは顔も名前も知らなかったけど、手紙の主が父だと直感的に分かった。お母さんに宛てた手紙の文章の書き方もそうだし、不思議と字にも懐かしさを感じるような気がする。
『以前からお誘いを受けていた、アメリカの研究機関への所属が正式に決まった。来月には彩香と一緒にアメリカへと渡る予定だ。日本にはもう戻らないつもりでいる。その方がお互いのためだしね。だから最後のつもりで、この手紙を送った。僕と彩香はアメリカで、君と文香は日本で、それぞれの人生を歩んでいこう。遠いアメリカの地で、君と文香の幸せを願っています』
「彩香って、誰?」
早矢佳がお父さんであることは分かった。なら、手紙に登場する彩香という女性は何者なのだろう。お父さんの再婚相手とか?
『追伸。君は怒るだろうけど、彩香の写真を同封しておいた。彩香と文香ももう十四歳か。時が経つのは早いね』
「……この子が彩香? どうして」
手紙から、一枚の写真が零れ落ちた。そこに写るセーラー服姿の少女は、私とまったく同じ顔をしていた。
「私たちは双子?」
双子の姉妹がいるだなんて、今まで聞かされたことはなかった。だけどこれだけそっくりな人間がいる理由なんて、それ以外には考えられない。
「文香。ただいま」
お母さんが買ってきたので、私はお父さんからの手紙を慌てて自分の部屋に隠した。お母さん宛ての手紙を勝手に読んでしまった罪悪感もあったし、そもそもこの手紙はお母さんに読ませてはいけないもののような気がした。
理由は分からないけど、手紙の内容から察するに、お父さんとお母さんはお互いに連絡しない約束をしていたようだ。だけどお父さんはそれを破ってお母さんに手紙を書き、読まれずに捨てられてしまう覚悟もしていた。そして私そっくり彩香という女の子の写真。あれをお母さんに見せてはいけないような気がした。その瞬間、何かがおかしくなってしまうという予感があった。お母さんには申し訳ないけど、お父さんの文面に甘えて、この手紙は最初から無かったものということにさせてもらおう。
「茅崎彩香」
お父さんの娘ということは、あの子の名前は茅崎彩香ということになる。お父さんとお母さんがどんな理由で別れたのかは分からない。それぞれに引き取られた双子の姉妹のことを、私がどうして知らされていなかったのか。疑問は山ほどあったけど、今はそれ以上に、彩香に対して私は興味津々だった。
私に双子の姉妹がいるのなら、一度でいいから会ってみたい。
私は手紙に書かれていた住所をスマホで検索した。
趣味は読書で、休み時間もいつも本を読んでいる。一人の時間の方が好きだけど、別に孤立しているわけではない。仲の良い友達はいるし、家に帰ってからやお休みの日に、メッセージのやり取りや電話をしたりもする。
だけど私は、どんなに仲の良くとも、友達と一緒に遊びに出かけたりはしない。前はよく、放課後や週末に遊びに行かないかと誘われたりもしたけど、何度か断っているうちに誘われることはなくなった。私が元々一人で静かに読書を楽しむキャラクターだったこともあって、無理に誘うのは良くないと配慮してくれたみたいだ。失礼なのは私の方なのに、変わらず仲良くしてくれる皆には本当に感謝している。
「朋絵。帰りにどっか寄っていこうよ」
「良いね。どこにする?」
昼休みに入ると、クラスメイトの夏奈さんと朋絵さんのそんなやり取りが聞こえてきた。朋絵さんは一時期、何だか元気が無くなっていたけど、最近は元気を取り戻し、親友の夏奈さんと毎日楽しそうに過ごしている。時々、トイレから戻ってくると少しキャラが変わっている時があるような気もするけど、たぶん考えすぎだと思う。
「マリナ。日曜って用事ある? 時松先輩とデートならそっち優先でもいいけど」
「日曜は牧人とは約束してないから大丈夫だよ。前に言ってた映画?」
「うん。せっかくなら二人で見に行こうよ」
「いいよ」
別の席ではマリナさんと寧音さんが週末の予定を相談している。二人は本当に仲が良くて、マリナさんは恋人の時松先輩と同じぐらい、親友の寧音さんを大切にしている。一時期、マリナさんのそっくりさんが目撃されているという噂を聞いたこともあったけど、最近はすっかり聞かなくなった。
「私もたまには……」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。本当は私も彼女たちみたいに、放課後や週末に仲の良いクラスメイトと遊んでみたい。読書する時間が好きなのは本当だけど、一人を好むのは、遊びのお誘いを断るための理由として、キャラを演じている部分も多い。
仲の良いクラスメイトはSNSをしている子が多いし、それを抜きにしても、思い出として写真を撮る流れになる可能性は十分に考えられる。
私は写真に写ることが出来ない。写真撮影のたびに、写れないと断るよりは、一人を好むキャラを作って、始めから集まりに参加しない方がマシだと思ったから、友達とは学校では仲良くしながらも、それ以外の場所では一緒に行動しないという形をとっている。
私は別に、写真に苦手意識や恐怖を抱いているわけではない。あなたは写真に写ってはいけないと、小さいころから母に言いつけられてきた。
母は決して厳しい人ではない。心優しい自慢の母親だと思っている。だけどそんな母が、私が写真に写るという行為に対してだけは、異常なまでの厳しさを見せる。写真に写るリスクがあるからと、学校行事は決まって休まされている。母が先生と直接交渉しているようで、私が直接先生や学校側から欠席の理由を聞かれたことはない。この様子だとたぶん、来年の修学旅行も欠席になるんだろうな。
母の言うことだからと、小さいころは疑問も持たずにその通りにしていきた。だけど私ももう十四歳だ。最近は疑問を感じている。
写真に写らないで私と言い聞かせる時の母は、厳しいと同時に、何かの恐怖に怯えているようにも見えた。何が母にそこまでさせるのか。どうして私は写真に写ってはいけないのか。その理由を私は知りたい。
※※※
夕方。家に帰ると郵便受けに何通か郵便が届いていたので、回収してから玄関の鍵を開けた。
「ただいま」
母はまだ仕事から帰っていないので、家の中から返事はないけど、おばあちゃんと一緒に暮らしていた時の名残でいつも「ただいま」と言ってしまう。この家は母の実家で、父と離婚してから戻ってきたらしい。私は幼かったので、そのころの記憶はまったく無いけども。母の両親、おじいちゃんは私が生まれよりも前に亡くなっている。前はおばあちゃんとも一緒に暮らしていたけど、半年前からは老人ホームに入所している。今この家は母と私の二人暮らしだ。
「そういえば、おばあちゃんも私に、写真に写るなって言ってたっけ」
感情的だった母とは違い、おばあちゃんは優しい言い方だったけど、写真に写らないように何度か注意を受けたことを覚えている。ということは、あれは母一人の感情ではなくて、神藤家としての意志ということになるのかな……ますます意味が分からない。カメラが珍しかった時代には、写真を撮られると魂を抜かれるという迷信が流行っていて、写真に写りたがらない人も多かったという話を聞いたことがあるけど、まさか科学が発展した現代で、母やおばあちゃんが写真の迷信を信じていたとも思えない。
「せめて理由ぐらい言ってくれればいいのに」
リビングのテーブルに郵便物を置くと、私の視線は自然と、廊下の向こうにある和室へと向いた。私は写真に写ること以外にも、和室へと立ち入ることを母から禁じられている。
私は亡くなったおじいちゃんのお仏壇に線香を供えたことがない。仏壇を見かけないということはたぶん、私が一度も入ったことのない和室に置かれているのだと思う。私に立ち入りを禁じながらも、母やおばあちゃんは和室に出入りしていた。おじいちゃんの仏壇が置かれているのだとして、どうして私はあの部屋に入ってはいけないのだろう? 生まれる前に亡くなっていて顔も知らないけれど、おじいちゃんも私の大切な家族だ。私だってお線香を供えたいのに。
どうして写真に写ってはいけないのか。どうして和室に入ってはいけないのか。例えどんな理由だったとしても、母の言うことなら全て受け止められるのに……何も知らされずにモヤモヤしている今の状態が一番つらい。
写真について母に聞くのは心の準備がいるけど、和室がどうなっているのかは、今すぐにでも確かめることができる。このままモヤモヤしているぐらいなら思い切って……。
「……やっぱりやめておこう」
廊下まで出たけど、けっきょくリビングまで引き返した。何だか嫌な予感がして、あと一歩のところで勇気が出なかった。
気を紛らわせるために、届いていた郵便物を確認することにした。私宛に届いていたのは、歯医者の定期健診のお知らせのハガキだけで、残りは母宛てに届いた郵便物だった。ほとんどが行政や企業からのお知らせだったけど、その中に一通だけ、個人で送ったと思われる手紙が混ざっていた。差出人の名前は……。
「茅崎早矢佳?」
手紙には茅崎早矢佳という名前が書かれていた。初めて目にする名前のはずなのに、すんなりと読むことが出来た。読むのが難しそうな早矢佳も、自然と男性の名前だと理解した上で一発で読むことが出来ていた。私はこの名前を、この男の人のことを知っている。
「ごめん。お母さん」
これは母に届いた手紙だ。娘だからと、私が勝手に中身を見てはいけない。頭ではそう分かっていても、私は封を切る手を止めることが出来ない。私の中の遺伝子がそうさせているような気がした。
『連絡してはいけないと分かってはいるが、どうしても一つだけ報告をしたくて手紙を送った。約束を破ったのは私の方だ。この手紙が読まれずに捨てられたとしても、私は君を恨まないよ』
「お父さん?」
小さい頃に両親は離婚して、お父さんのことは顔も名前も知らなかったけど、手紙の主が父だと直感的に分かった。お母さんに宛てた手紙の文章の書き方もそうだし、不思議と字にも懐かしさを感じるような気がする。
『以前からお誘いを受けていた、アメリカの研究機関への所属が正式に決まった。来月には彩香と一緒にアメリカへと渡る予定だ。日本にはもう戻らないつもりでいる。その方がお互いのためだしね。だから最後のつもりで、この手紙を送った。僕と彩香はアメリカで、君と文香は日本で、それぞれの人生を歩んでいこう。遠いアメリカの地で、君と文香の幸せを願っています』
「彩香って、誰?」
早矢佳がお父さんであることは分かった。なら、手紙に登場する彩香という女性は何者なのだろう。お父さんの再婚相手とか?
『追伸。君は怒るだろうけど、彩香の写真を同封しておいた。彩香と文香ももう十四歳か。時が経つのは早いね』
「……この子が彩香? どうして」
手紙から、一枚の写真が零れ落ちた。そこに写るセーラー服姿の少女は、私とまったく同じ顔をしていた。
「私たちは双子?」
双子の姉妹がいるだなんて、今まで聞かされたことはなかった。だけどこれだけそっくりな人間がいる理由なんて、それ以外には考えられない。
「文香。ただいま」
お母さんが買ってきたので、私はお父さんからの手紙を慌てて自分の部屋に隠した。お母さん宛ての手紙を勝手に読んでしまった罪悪感もあったし、そもそもこの手紙はお母さんに読ませてはいけないもののような気がした。
理由は分からないけど、手紙の内容から察するに、お父さんとお母さんはお互いに連絡しない約束をしていたようだ。だけどお父さんはそれを破ってお母さんに手紙を書き、読まれずに捨てられてしまう覚悟もしていた。そして私そっくり彩香という女の子の写真。あれをお母さんに見せてはいけないような気がした。その瞬間、何かがおかしくなってしまうという予感があった。お母さんには申し訳ないけど、お父さんの文面に甘えて、この手紙は最初から無かったものということにさせてもらおう。
「茅崎彩香」
お父さんの娘ということは、あの子の名前は茅崎彩香ということになる。お父さんとお母さんがどんな理由で別れたのかは分からない。それぞれに引き取られた双子の姉妹のことを、私がどうして知らされていなかったのか。疑問は山ほどあったけど、今はそれ以上に、彩香に対して私は興味津々だった。
私に双子の姉妹がいるのなら、一度でいいから会ってみたい。
私は手紙に書かれていた住所をスマホで検索した。