中間テストの期間がやってきた。俺と安奈はいつもの公園にも寄らず真っ直ぐ帰り、家で勉強をすることになった。
 テスト範囲は思っていたより広く、教科書のページ数を確認して俺は青ざめた。一科目でも三十点以下、つまり赤点を取ってしまうと、テスト後に補習がある。それだけは避けたかった。
 しかし、テスト返却日当日――。

「げえっ、赤点取った!」

 俺は数学と英語を落とした。とんとん、と斜め後ろから肩を叩かれた。

「ボクが居るから寂しくないよ」
「おい、香澄は何科目落としたんだよ 」
「全科目!」
「胸を張って言うな!」

 一樹の方を見ると、机に突っ伏していた。これは、もしかすると。香澄がニヤニヤと笑いながら一樹をつついた。

「ねえねえ、一樹もお仲間?」
「ああ……数学、二点足りなかった……」

 香澄はともかく、一樹も案外バカだったんだな。放課後、クラスの奴らと話をすると、一組で補習を食らったのはこの三人だけだった。

「赤点三兄弟だね! 長男は誰かな?」

 香澄は呑気なことを言っていた。まるで危機感が無い。さすが、大学には行かないと明言しているだけある。

「ボクは六月生まれだよ。達矢と一樹は?」
「俺は十月生まれ」
「オレは八月」
「じゃあ、ボクが長男で一樹が次男! 達矢が三男だねー!」

 そんなことを言っていると、安奈が俺を迎えに来た。

「達矢、赤点取っちゃったの!?」
「ああ……だからしばらく一緒には帰れない」

 補習は明日から三日間だ。完全下校まで、みっちり指導されるらしい。

「わたし、達矢のこと待ってるよ? 図書室にでも行ってる」
「別にいいよ、気にしなくても」
「わたしが待ちたいの」

 すると、運動部の奴らが俺たちを冷やかしてきた。相変わらずラブラブだなぁと。知らない男子たちに囲まれて、安奈がおろおろし始めたので、俺は手早く荷物をまとめて帰ることにした。

「達矢ったら、ちゃんと勉強してたの?」

 いつもの公園で、俺は安奈に詰め寄られていた。安奈は上から数えた方が早い成績だったらしい。

「その、ちょっと部屋の片付けとかしちゃってて」
「なんでまた」
「ずっと机に向かってると気になるだろ? それで、棚の位置とか動かしちゃったり」
「もう、達矢は集中力がないんだから」

 これが本当の彼氏なら恥ずかしい失態だが、幼馴染なので問題はない。こんなことならわたしが勉強を教えるんだった、と言う安奈の愚痴を、左から右へと受け流すだけだ。

「そうだ。せっかくの機会だし、芹香ちゃん誘ってみようかな」
「えっ? どういうこと?」

 安奈の話はこうだった。俺の補習を待っている間、芹香と過ごし、彼女の情報を手に入れてくれるのだと。好きなものや嫌いなもの、誕生日なんかを聞き出してくれるらしい。

「さすが俺の幼馴染!」
「わたしも、芹香ちゃんとは仲良くなりたいと思ってたしね。それくらいのことはするよ」

 そして迎えた補習当日。他のクラスの赤点者も一組に集まり、合同で受けた。なかなかしんどかったが、この間に安奈が情報を入手してくれているのだと思うとやる気も出た。香澄や一樹も居るし、確かに寂しくはなかった。そして、三日間の苦行の後、俺はやっと解放された。

「それで、今日はどうだった? 誕生日、聞き出せた?」

 俺が一番知りたいことがそれだった。安奈と芹香は図書室で過ごしていたらしく、そんなにベラベラとは話さなかったようだが、それでもきちんと要点は押さえてくれていた。

「八月三日だって」
「夏休み期間中かぁ」

 いつもの公園で、俺は頭を悩ませていた。もちろん、誕生日は祝いたい。しかし、夏休みとなるとどうすればいいんだ。二人っきりで遊ぶ約束をして、そのときにプレゼントでも渡すか? いや、まだ俺はただの男友達だ。今はまだハードルが高い。

「獅子座と天秤座の相性、調べてあげよっか?」

 安奈はスマホで星占いのページを開いた。恋愛関係としては七十点、友達としては百点という結果が出ていた。

「七十点か! けっこう高いな!」
「……牡羊座の方が、点数高いんだよ? ほら」

 俺と安奈の恋愛関係としての相性は、九十点だった。

「マジかよ」
「ふふっ、不思議だね? フリなのにね?」
「まあ、あくまで占いだからな」

 それでも、芹香との間に良い占い結果が出たことは嬉しい。安奈は彼女の好きな食べ物なんかも聞いていてくれた。コーヒーはブラック派だが、甘いものは好きで、チョコレートを常に家にストックしてあるのだとか。あと、ハチミツなんかも好きらしい。

「よーし! 補習も終わったし、そろそろ芹香を次のデートに誘ってみようかな!」
「うん、いいね! 頑張ってね!」

 俺は次のデート先を決めた。今夜、ラインを送るぞ。