芹香とファミレスに行き、映画の約束をした翌日。俺は早速、安奈にそのことを報告した。

「へえ、良かったね!」

 通学路で俺は、事の顛末を話していた。

「でもなー、誰とも付き合いたくないらしいからなー」
「でも、友達になって欲しいって言われたんでしょう? 一歩前進! だよ?」

 安奈は握りこぶしを作り、天に突き出した。俺もつられてそうした。

「よーし! 頑張るぞー!」
「その意気だー!」

 学校に着くと、下駄箱のところで千歳ちゃんに話しかけられた。

「おはよう! 安奈ちゃん、達矢くん」
「おはよう! 千歳ちゃんは今日も元気だな」
「えへへっ」

 それから、千歳ちゃんは小さな紙袋をカバンから取り出した。

「これ、借りてた本。と、ちょっとしたお礼」

 中を見てみると、文庫本と一緒に、個包装されたチョコレートが何個か入っていた。

「気ぃ遣わなくてもいいのに。で、どうだった?」
「ぶっちゃけ難しかった! 達矢くんって凄いね? こういうの読めるなんて」
「そうでもないよ。あっ、安奈、次読むか?」
「うん。とりあえず借りとくね」

 俺は紙袋から文庫本だけを取り出し、安奈に渡した。それから、流れで俺たち三人は二組の教室に向かった。

「あれっ? 達矢だ。おはよう!」

 先に来ていた優太が俺たちに声をかけた。

「おはよう、優太。今日も昼休み、こっち来るのか?」
「うーん、今日は我慢しとく。一日おきくらいにしとく」

 実は次の土曜日、一緒に映画に行くのだと知ったら、優太はどんな反応をするのだろうか? 可哀想だから、絶対に打ち明けないでおこうと俺は思った。
 そして、優太と少しだけ話をしてから、俺は一組の教室へ行った。

「おはよう達矢!」
「おはよう香澄。拓磨はまだか?」
「まだみたい。ねえねえ、拓磨が来る前に言っときたいんだけどさ」

 香澄は俺に耳打ちをした。

「今日の放課後、いきなりバイト先訪問しようよ」
「ええっ?」
「ゴールデンウィークはバイト詰めだったって言ってたし、もう慣れてるっしょ」

 にひひ、と悪い笑みを浮かべた香澄。結局、安奈も一緒に、拓磨のバイト先であるコンビニへ行くことになってしまった。
 放課後、拓磨を見送った後、俺と香澄と安奈は、二十分ほど教室で時間を潰してから、拓磨の家の最寄り駅に向かった。

「ここだー!」

 駅から五分ほど歩いたところで、香澄がとあるコンビニを指差した。

「他のお客さんもいなさそうだし、いいタイミングだね!」

 安奈も何だか楽しそうだ。俺たちはぞろぞろとコンビニに入った。

「いらっしゃいま……」

 一人でレジに立っていた拓磨は、俺たちの顔を見るなり固まってしまった。

「えへへ。来ちゃった」

 香澄がそう言うと、拓磨はため息をついてからメガネのふちに手をやった。

「邪魔すんなって言ったろ」
「ボクたちは普通にお買い物に来たの! 百六十六番ください!」
「明らかに未成年の方にはお売りできません!」

 そんな香澄のボケをいなした拓磨は、しっしっと手を振った。俺たちはアイスの棚に向かい、めいめい好きな物を取って拓磨に会計をしてもらった。

「またお越し下さい。って一応言っとくわ」
「ふふっ、拓磨くん、本当にまた来るね?」

 安奈が言った。

「達矢と安奈ちゃんなら歓迎」
「ちょっとー、ボクはー?」
「はい、買い物したならさっさと出る!」

 拓磨に追い出された俺たちは、コンビニのすぐわきにあった公園へ行った。香澄曰く、ここが拓磨との間の「いつもの公園」らしい。

「俺と安奈にも、いつもの公園があるぞ。ここみたいに遊具は無いけどな」
「へー、そうなんだ!」

 ベンチに座り、俺はソーダ味のアイスの棒をガリガリと食べ始めた。香澄はチョコレート味のソフトクリーム、安奈はカップに入ったバニラアイスだ。安奈が言った。

「なんだかカッコよかったよね、拓磨くん」
「でしょう? 何やっててもカッコいいんだよね、拓磨ってば」

 それから香澄は、こんな話をしてくれた。

「中学のときも、拓磨ってば告白されたこと何回かあるんだよ」
「そうなんだ!」

 安奈はキラキラと目を輝かせていた。

「でも、好きじゃない子とは付き合えないからって、全部断ってたの。勿体ないよねぇ」
「ああ、拓磨くんの気持ち分かるなぁ。わたしも、よく告白されてたけど、好きじゃない人と付き合うなんて無理だった」
「だって好きなのは達矢だもんね?」
「うん、そうだよ」

 あっさりと言いのけた安奈に、香澄はキャーと悲鳴をあげた。

「いつから達矢のことが好きだったの?」
「分かんない。もしかしたら、保育園の頃からだったのかも」

 おいおい、そういう設定でいくのかよ。保育園の頃なんて、泣かせてた覚えしか無いぞ。香澄は俺にも話を振ってきた。

「達矢はいつから?」
「中学のとき、安奈がモテはじめて、それから焦り出した感じ?」

 これは、何度か他の奴にも言ったことのある話だった。なので、続く香澄の追撃にも難なく答えることができた。アイスを食べ終わった俺たちは、それからしばらく話をして、日が傾く頃になってから解散した。