「魔法は誰にも見られないように、誰もいない夜中にそっと実行してね」と、おばあちゃんから教えられていた。

 早速真夜中、ひとりで広い空き地の隅に来た。大きな桜がそこに咲いている風景を想像した。そして手から桜が出るようにイメージして、手のひらを桜の木が立ってほしい場所に向ける。

 一瞬だけ光ると、目の前に桜が現れた。
 本当に僕が、魔法で桜の木を出したんだ……。

 しばらく桜を見つめた。
 出てきた桜の木は、ちょっと想像と違った。

 なんと想像よりも小さく、僕の身長である168cmよりも少しだけ高い大きさだった。

 ちなみに桜の木が急にこの空き地に現れたけれど、驚く人はいない。なぜなら桜の木が魔法で出てきた瞬間を目撃した人を除き、元からここに桜があったように人間たちは錯覚するらしい。なんて都合の良い魔法だ。