次の日、彼女がいつものように外を見つめていたから、彼女と目が合った時、勇気を出して実行してみた。手が震えすぎたけれど、なんとか出来た。

 彼女は『桜、好き』と口を動かしながら手話で返してくれた。そして、桜みたいに優しく微笑んでくれた。

――ドキッとした。

 僕は彼女と、初めて言葉の交流をすると、顔が熱くなってきた。心臓の音も早くなってくる。どうしよう――。

 僕は恥ずかしくなって……シロを抱っこして逃げた。

 多分彼女は逃げた僕の姿を見て、不思議な気持ちでいっぱいだろう。僕も微笑み返せば良かった。でもそんな心の余裕はなく、むしろひどい表情を彼女に向けてしまったと思う。

「はぁ、どうして逃げたんだろう僕……」と部屋の中でひとりごとを呟いた。

 でも、彼女は桜が好きなんだということが分かった。
 魔法を使う決心をした。