次の日もシロと一緒に、彼女の家の方に向かった。そしてそっと彼女の家の方を向くと彼女はこっちを見ていた。次の日も、その次の日も……。彼女の家の前を通るのが新しい散歩コースになった。僕が散歩で彼女の家の前を通る時間、彼女は毎日こっちを家の中から見ていた。だんだんと目が合うことに慣れていき、目をそらさないでいられるようになった。彼女は口元だけで微笑む。

 彼女は毎日桜のペンダントをつけていた。
 それが目に入ったのは、僕が〝大きな桜の木を出す魔法〟が使えるからだ。ただし、それはたったの1回きり。使えるようになったのは、僕がまだ幼稚園に通っているころにおばあちゃんが「一度も使う機会がなくてまだ残ってるからあげる」と、僕に魔法の力をくれたから。

 正直、そのころは桜には興味がなかった。
 今もそんなに興味はない。

 だけど、もしも彼女が桜のことを好きなら、この魔法は彼女のためにあるのかもしれない。と思いつつも「桜、好き?」ってなかなか訊けずにいた。