それからもずっと、シロと一緒に桜の前を通った。桜の木がいなくなる様子は少しもなくて安堵する。

 桜はだんだん大きくなっていった。
 桜が成長する姿を見るのはうれしかった。

 自分が魔法で出した桜。子供を産む気持ちは分からないけれど、もしかしたらそれに近い感情を桜に持っていたのかもしれない。

 けれど、何かずっと物足りなかった。

 桜は成長するのに、僕は何も変わらないまま。そう考えた僕は、もっと手話を勉強することにした。

 手話はひとつひとつ意味がきちんとあって、顔の表情や動きにも意味があって……覚えるのが楽しかった。彼女と再会出来た時には、あの日々よりもスムーズに会話をするんだ。という思いを胸に強く抱く。手話のボランティアにも登録して過ごしていくと、外に行くのも人に会うのも、怖さは残るものの、以前よりすんなり出来るようになっていった。

 桜の周りも少しずつ変わっていく。

 彼女が住んでいた家は壊され、新しい家が建ち、新しい家族が住んだ。桜の木が立っている空き地には、売地の看板が立てられた。

 土地が誰かに買われ、家が立ったりしたら桜の木が抜かれてしまう可能性を考えて、焦った。今あらためて考えると、看板が立てられる前から抜かれる可能性はあったわけだけど。僕は、看板に書いてあった電話番号に電話をかけて「土地を予約したい」と言ってみた。「二週間ぐらいまでなら……」と返事が来る。土地代を二週間で貯めるなんて出来なかった。

 この土地が売れませんようにと毎日願いながら土地代を貯めた。そして桜の木があるこの土地を購入した。

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