だけど桜の花びらが全部落ちた日、彼女は『私、明日の早朝に、ここからいなくなるの』と、文字をスマホに打った。親の都合で引っ越すらしい。その言葉の衝撃はすごかった。心の中に隕石が落ちてきたみたいに、痛かった。

 彼女が家に戻る時は、彼女が家の中に入るまで見送った。

 彼女の姿は消えた。ここから離れたくないなと思いながらも、窓から覗いてくれる彼女を期待していたら、期待通りに窓のところに彼女の姿が現れた。

 僕は手を振る。

 彼女は微笑みながら『桜、ありがとう』とゆっくり口を動かし、手話をした。

 僕も『ありがとう』と、それから『また、一緒に桜を見たい』と手話をした。

 すると彼女は『うん』と口を動かしながら頷いた。

 いなくなる話は夢だったらいいのになと現実逃避をし、次の日も彼女に会いに行く。だけどやっぱり彼女は……いなかった。窓から見えるリビング。そこにあったはずの家具もなくなっていた。

 一緒に見たいと伝えた時に彼女は頷いてくれたから、お花見をした思い出と、そしてこの桜を守ろうと誓った――。