購入した土地には、大きな桜の木がある。
 十年前に出会った彼女との思い出の桜だ。

 桜を眺めるたびに、最後に見た彼女の姿が思い浮かぶ。窓からこっちを覗いた彼女は、両手の手のひらをずらして、前後に合わせた。そして右に移動させつつ、ぱちぱちと叩きながら少しずつくるんと回していき、左右の手の前後を逆にした。

 それから、ひらいた左手の手の甲を上にし、そこにひらいた右手を縦にしてからストンと垂直に落として上に戻した。

 そして、満開な笑顔で微笑んでくれた。

 僕はその時の彼女を鮮明に覚えていて、ずっと忘れられない――。

 今年も桜の季節がやってきた。


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