喚く波多君の両脇が、いつの間にか迫って来ていた仮面たちに抱えられた。


「ふざけんな……っ! 離せよ!」


 波多君が暴れるが、仮面たちはそれをものともしない様子で処刑台へと彼を引きずっていく。

 しかし、波多君が振り回したナイフが脇を抱えている一人にかすった。

 それは服を切るに留まったが、仮面の怒りを(あお)るには充分だったようだ。

 次の瞬間、仮面が波多君を背負い投げた。

 地面に叩きつけられて呻く波多君の右腕に、銃が突きつけられる。

 乾いた音が響いて、波多君の悲鳴と共に、撃ち抜かれた箇所から鮮やかな赤が吹きこぼれた。

 ……見ていられない。

 ふいに逸らした視線の先で、恭君が波多君を見つめてうれしそうにしていることに気づいてしまった。


「薔薇を赤く染めなくちゃ……!」


 恭君はそう言って再び波多君を引きずり始めた仮面たちに近づくが、あっけなく突き飛ばされる。

 彼には波多君が新鮮な『絵の具』にでも見えているのだろうか。

 ……狂っている。

 何もかもがおかしい、みんなおかしくなっていく。

 全てから目と耳を塞いだ。

 ――もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ。

 ここにいたくない。

 狂っていくみんなを、死んでいくみんなを、これ以上見たくない。

 誰かに肩を抱かれて、現実に向き合ったとき、鼓膜に届いたのは聞き慣れてしまった放送。


『イカレ帽子屋は処刑されました』


 恭君が、転がる首の切断面を楽しそうに撫でていた。


「ありす、私、もう嫌だ……」


 私の肩を抱いて震える心が、弱々しく呟いた。