「だからって、こんなこと……」


 心が波多君をねめつける。

 その視線には憎しみ、怒り、様々な感情がこもっているのが伝わってくる。


「ああ、演じても何も変わらなかった。ただ犯人を喜ばせただけだったな」


 波多君は少しも悪びれる様子はない。

 彼もまた、気が触れているのだと思った。


「波多、お前、人を殺したんだぞ……?」


 咲真が言うが、波多君はそれを鼻で笑う。


「だからなんだ、人殺しなのは全員同じだろ。祐奈は俺らに殺された! それともあれは、自分のせいじゃないでも?」


 咲真は目を逸らして口を結ぶ。

 波多君の言う通り、私たちみんなの意志で祐奈が死んだことは事実だ。

 けれど、千結を自らの手であんなふうに殺すなんて、あんまりだ。


「もう、遅いんだよ。今さら善人ぶったところで何になる? 俺はいくらでも悪人になる、ここから出るためならな!」


 ……もう、彼を止めることはできないと思った。

 もう遅かった、何もかも。


「――演じたところでこんな悪夢が終わらないなら、怪しい奴から殺していく」


 波多君は先ほどまでの饒舌(じょうぜつ)が嘘のように、呟くように言った。