「な、んだよ、これ……っ!」


 咲真は口元を抑え、顔をしかめる。

 その反応を見た心と水無君は、足を止め、咲真に続くことはしなかった。


「ありす、大丈夫?」


 心に寄り添われ、水無君には心配そうに顔を覗き込まれる。


「――誰が、やったんだよ!?」


 咲真が振り返り、叫ぶ。

 波多君と恭君を、鋭い眼差しで見据えている。


「誰がって……トランプ兵はこんなことしないよな?」

「はぁ?」


 波多君は冷めた目で、口の端を歪めている。


「俺は演じただけだ、放送に従えば、出られるかもしれないだろ?」


 眉をひそめている咲真よりも早く、私はわかってしまった。

 恭君はトランプ兵を演じている――気が触れているとしても、確かにその行動は放送に従った結果なんだ。

 そして、波多君も『演じた』と確かに言った。

 この状況で演じたというのなら、(すで)に何かしたというのなら、もしかすると彼と千結の役割は――。


「イカレ帽子屋は、眠り(ねずみ)をポットに詰めるんだろ? なあ、恭」


 恭君に確認するように言ったその台詞は、私の仮説が正しいことを証明した。

 波多君はイカレ帽子屋、千結は眠り鼠。

 恭君は波多君の言葉を聞いていないのか、千結の遺体を刺して得た血液を薔薇の花にこすりつけるのに夢中だ。