波多君はそう言うが……全員、なんて揃ってはいないはずだ。

 一人、欠けている。


「全員? 千結ちゃんは……」

「いる、一応」


 嫌な汗が伝う。

 気づけば、私はティーポットへと向かっていた。


「ありす!?」


 咲真、水無君に心も私に続く。

 ティーポットの蓋を持ち上げ、中を覗き込む。

 その瞬間私の目に飛び込んだのは、千結の変わり果てた姿だった。

 曲がることない方向へ折れ曲がった関節、いたるところにある切り傷――。

 恭君がやったのだろうか?

 『絵の具』を得るために、こんなことを?

 理解できない。

 やはり彼は頭がおかしくなってしまったのだ。

 千結は、乗り越えたのに。

 せっかく悲しみを乗り越えて、頑張ろうとしていたのに。

 こんなにもあっけなく、彼女の決意は無駄になってしまった。

 自分の意志と関係なく、私は膝をついてへたり込んだ。

 落としたティーポットの蓋が、芝と土を(えぐ)った。

 三人が私に追いついて、咲真が真っ先にティーカップを覗き込む。