「あんまり危ないことしないで」

「……うん……?」


 ――その言葉がどんな意味なのか、即座に理解できる思考力は持ち合わせていなかった。

 でも、前を走る心からなんとなく嫉妬されているような気がして、水無君と長話をするのは得策ではないと考えた。

 屋敷の扉の前で一息つき、外に出る。

 恭君が庭園で、どうしたというのだろう。


「二人ともあんまり音を立てないで、あれ見て」


 水無君の視線が示す先には、恭君の姿があった。

 彼は薔薇の生け垣の前で座り込んで、何やら手を伸ばしている。

 ただ手を伸ばしているというより、薔薇を触っているように見える。


「……何、してるの……?」

「まだ、見てて」


 言われた通りにしていると、恭君は何かを手に取っておもむろに立ち上がった。

 彼が向かう先には――遊園地を彷彿(ほうふつ)とさせるオブジェ。

 彼の身長よりも少し低いくらいのティーポットに近づくと、その蓋を開けている。

 ……確認していなかったけれど、あれって開けられるんだ。

 変に感心するが、恭君の行動の真意は掴めない。

 彼はティーポットの中に手を伸ばして、出すが、特に何かを取り出したような様子はない。

 その後は律儀(りちぎ)に蓋を閉めて、再び生け垣の前に座り込んで薔薇の花を触っている。


「……さっきからずっと、あれを繰り返してる」