「お願い……俺も、怖いんだよ。なるべく、ありすと離れたくない。俺はありすとなら死んでもいい。だから、一緒にいさせてよ」


 そう言った彼の声は、今まで聞いたことがないほどの、弱々しさだった。

 いつも冷静で、あまり感情の振れ幅がない彼の、(おび)えに振り切ったような声。

 その壊れそうな声に、その頼り切った言葉に、その私を見つめる眼差しに、断る理由なんて一瞬で(つい)えてしまった。

 そしてーー結局、私が咲真の部屋に入っても、何も起こらなかった。

 他人を部屋に入れた咲真にも、他人の部屋に入った私にも、罰はないようだ。

 ……もしかすると、注意書きはブラフだったのかもしれない。

 脅して他人を部屋に入れさせないことで、引き出しに書かれた『役割』の証明をできなくさせる。

 私たちを疑心暗鬼にさせるための罠だった……?