「な、何してるの?」

「なんか音楽が聞こえたから来たんだけど、女子だけで話してたから入りづらくて……」


 ……ということは、私たちとほぼ同じタイミングでここに来て、ずっと盗み聞きしていたということだろうか。


「ずっと聞いてたの?」

「いや、ありすのことを待ってただけだよ」


 少しだけ口の端を上げる咲真を見ると、(とが)めようとした気持ちは消えてしまった。


「……咲真はありすのこと大好きだよねぇ、本当」


 心がため息混じりに言う。

 ……私も咲真も、すぐに否定の言葉は出ない。


「まあね、心も部屋まで送るよ」


 咲真は心の言葉をさらりと受け入れたが、反対はそうはいかなかった。


「咲真は優しいね。でもいいよ、私は。仲良く二人で帰りなよ」


 部屋までの道のりなんてすぐなのに、心は変に気を遣ってくれたのか、一人ですたすたと歩いて行ってしまった。


「……帰ろ?」


 咲真に手を握られながら、階段を上がる。


「ありす、俺はね」


 咲真は私たちの話を聞いて何を思ったのかーーなんて巡らせた思考は、ふいに真剣な声色で塗りつぶされた。


「……みんなで助かろうなんて、思ってない」