しかし、私の出る幕はなさそうだった。

 白羽部長は微妙にずれた眼鏡を直しながら、そのレンズの奥で凛とした眼差しを波多君に向ける。


「でも、取り乱すより考えたほうがマシだろう? こんなときこそ冷静にならないと」

「……それは、そうすけど」


 白羽部長の言葉で、波多君は少し落ち着いたみたいだった。

 不安が杞憂(きゆう)に終わってよかった、と胸を撫で下ろす。


「よかったね、大丈夫みたい」

「心配しすぎ。波多はあんな感じだけど、よっぽどのことがなければ人に暴力振るったりはしないよ。白羽部長に対しては聞き分けもいいし」


 波多君のことは苦手であまり知らなかったけれど、正直、咲真の言葉は意外だった。

 金髪にピアス、着崩した制服、強気な性格――それらから、勉強は嫌いで遊ぶのと喧嘩が好きな根っからの不良だと思い込んでいた。


「そうそう、結構真面目だし、良い人だよ。バイトでも助けてくれたし」


 水無君も、波多君について良い印象を持っているようだ。

 見た目で決めつけていた自分を恥ずかしく思う。


「水無は波多とバイト先一緒だったんだな」

「うん、波多のが先輩だけどね」


 雑談を交わす二人の隣で、水無君もやっぱり記憶がはっきりしているんだ、と思う。


「ねぇ、心も記憶、あるんだよね?」