私が訊くと千結は、ほんの(わず)かな仕草で頷いた。


「千結、これ……少しは食べたほうがいいよ?」


 心がパンを差し出すと、千結は小さく「ありがとう」と言って受け取った。

 ――沈黙。

 ……何を話せばいいか、何になら触れていいのかわからない。


「さっきの、何の曲?」


 何か話さないと、という焦りから思わず口に出したのは、そんな当たり障りのない質問だった。


「あれは……名前はないの。オリジナルの曲」


 千結は俯いてしまった。

 何かいけなかっただろうか。


「千結、作曲できるんだ? すごいなぁ」


 心が場の空気を良くしようとそんなフォローをいれてくれたが、逆効果だったみたいだった。

 千結の瞳に溜まった涙がそれを証明している。


「私じゃなくて……祐奈が……」


 そこまで言うと、千結は手のひらで顔を覆って泣き出してしまった。

 ……まさか祐奈の作った曲だなんて、思わなかった。

 知らなかったとはいえ、聞くべきではないことを聞いてしまったと、申し訳なく思う。

 心もすっかり眉を下げ、口を結んで千結の背中を撫でている。


「……ゆ、祐奈ぁ……ど、して……私、信じてあげられなかった……」

「千結……」