水無君の言葉と同時に三人に心配そうに見つめられるが、記憶が曖昧(あいまい)だということの他に異常はない。

 何だか事を大げさにしてしまったみたいで申し訳ない気持ちになる。


「大丈夫! ごめんね、心配させて。私の心配なんかしてる場合じゃないのに――」


 言いかけたところで、何か大きな物音に私の言葉が遮断(しゃだん)されてしまった。

 物音の聞こえたほうを見ると、波多君が屋敷の扉を蹴り上げていたようだ。


「ふざけんな、くそっ!」

「落ち着け、波多!」


 悪態をつく波多君を、白羽部長が肩を押さえて止めている。


「どうやって落ち着けばいいんすか、誘拐されて監禁されて、挙げ句の果てにはあんなもんで殺されそうになってるんすよ?」


 波多君は怒号と共にギロチン台に鋭い眼光を飛ばして、白羽部長の手を振り払った。

 暴力的なところは肯定できないけれど――波多君の言うことは間違っていないかもと思ってしまう。


「そうだけど……とにかく今は、逃げる方法を考えないと!」

「簡単に言っても、そんな容易(たやす)く逃がしてくれないと思いますよ? こんな場所もあんな器具も用意するほど俺たちは歓迎されてるみたいだし」


 波多君は皮肉を吐き捨てるように言った。

 止めたほうがいいかもしれない。

 不良気質の波多君がヒートアップしたら、暴力沙汰にもなりかねない。