海沿いの崖の上、彼女の形見は荒れ狂う波に向かってひっそりと置いてあったと、ある朝に先生から聞かされた。

 行方不明として捜索された彼女は、靴だけを残していなくなってしまった。

 遺体が見つかったという話は聞いていない。

 衣純ちゃんをいじめていた連中は、お前たちがやりすぎたからだ、と別の連中からのいじめを受ける日々が始まっていた。

 ……そんな一連の流れの中、私はひたすら、傍観者だった。

 私はやっていない。

 私は見ていただけ。

 私は知っているだけだ。

 ただ……一度だけ、衣純ちゃんと話したことがあるのを思い出した。

 確か、場所は屋上に向かう階段の途中だったっけ。

 すすり泣いていた彼女に向かって、私は何と言っただろうか。

 ……思い出せないのだから、大した話じゃなかったのだと思う。

 それはきっと、衣純ちゃんにとっても同じだろう。

 ――誰も彼女に寄り添わなかったから、彼女は自ら死を選んだ。

 話したことすら一度きりの私の言葉なんて彼女の心に届いたはずがない。

 ……誰もがみんな、加害者だ。

 いじめをしていた連中も、それを見ていた私たちも。

 もしかしたら今、私たちがこんな目に合っているのは、衣純ちゃんを想う誰かの復讐なのかもしれない。

 目を逸らし続けた『加害者』という現実は、こんな事態になってやっと、私の心に重くのしかかってきた。