「ここに来る前、文化祭の準備をしてる時だって、恭を階段から突き落としたろ?」

 ……私が、そんなことを?

 恭君を見ると、ばつが悪そうに肩をすくませていた。


「……確かに僕は後ろから押されて階段から落ちたけど、せいぜい五段くらいだし、それにありすは(つまず)いて僕にぶつかっただけだよ」


 そう言われれば、そんなことがあった気がする。

 ぼやけている記憶の中で、なんとなく光景が浮かぶ。


「そうやってありすを庇うけどな、お前だって怪しいからな? こんな屋敷まで用意してアリスの世界を再現しようなんて、アリスマニアのお前くらいしか思いつかないだろ!」


 確かに恭君は自他ともに認める『不思議の国のアリス』好きだ。

 孤独な人を集めただけで明確な目的のなかった部活を、先生達を納得させるために書類上ではアリスについて研究する『アリス部』にしようと言い出したのも、文化祭の出し物で『不思議の国のアリス』の劇をしようと言い出したのも、彼だった。

 でも私は、恭君がこんなことを仕組んだとは思わない。

 大人しくて優しい恭君に、こんなことできるわけがない。


「僕じゃないよ!」

「じゃあやっぱりありすだな? そういえば水無にだって怪我させてたよなぁ?」


 ――そんな、水無君にまで?

 私が水無君のほうへ振り向くより先に、彼は口を開いた。