「桃矢君、落ち着いて……!」


 近くにいた祐奈が桃矢君をなだめようと手を伸ばす。

 しかし、それは振りほどかれてしまった。


「落ち着いていられるほうがおかしいだろ! それとももしかして、お前がハートの女王とか?」

「な、何言ってるの、そんなわけないでしょ!」


 そうだ、祐奈がハートの女王なんて、そんなわけがない。


「なくもないだろ? この中の誰かがハートの女王なんだ! お前じゃないなら、誰だ? 誰が怪しい?」


 ――この中の、誰か……?

 どうして、そんなことを言うのだろう。

 確かに屋敷も庭園のどこにもハートの女王や犯人らしき人物は見当たらなかったけれど、だからってそんなことを言うなんて。

 私たちは、同じような闇を抱えた仲間じゃなかったのだろうか。


「ねえ、やめなよ。この中の誰かがハートの女王なんて、そんなわけないでしょ!? どうしてそんなこと言うの?」


 つい、立ち上がって声を張り上げてしまった。


「どうしてもこうしても、犯人がそう言ってただろうが! それとも嘘だっていうのか? 嘘だったとして、ハートの女王を処刑する以外に俺たちが助かる道がお前にはわかるのか!?」

「犯人が、言ってた……?」


 私の記憶がおかしくなければ、目覚めたときに聞いたあの放送で、そんなことは言っていなかった。

 桃矢君に言い返そうと息を吸い込んだ時、横から咲真に服の袖を掴まれる。