恐る恐る覗き込んで、人間は理解しがたいことが起こると悲鳴さえ出ないということを知った。

 何があっても見届ける――なんて、私のそんな覚悟は偽物だったのかもしれない。

 体が言うことを聞かず、私はその場にへたり込んでしまった。

 ーーロープの先には、人間の、腰から下だけが括り付いていた。


「嫌ぁ!」


 心が叫んで、目を背ける。

 私もそうしたいけれど、釘付けになってしまった視線を逸らすことができない。

 それは、何かに食い千切られたかのように歪に切断されている。

 切断面から、血液なのか、内臓なのかわからないが、とにかく赤いものがこぼれ落ちている。


「嘘だろ……」


 咲真は頭を抱え込んでしまった。

 手のひらに付着していた血液が、咲真の髪を赤く染める。
水無君と波多君はふさがらない口のまま、目を見開いている。


『じゃあ、行ってくるよ』


 ――みんなのために優しく笑った、帰らぬ人を思い出す。

 あの時、白羽部長を無理やりにでも止めればよかった。

 いくらそんなことを思ったって、もうあの時に戻ることはできない。

 生ぬるい涙が頬を伝って、自分の体温と命を感じた。

 白羽部長の赤色が脳裏に焼き付いて、懺悔(ざんげ)と後悔が止めどなく溢れた。