「嫌だ……嫌だよ……」


 しゃがみ込む心の震える背中を、水無君と共に撫でた。

 きっと私も心と同じ気持ちで、勝手に瞳に涙が(にじ)んでくる。


「……見たくない奴は、見なくていい」


 波多君は、険しい眼差しを生け垣に向けながらぼそりと言った。


「お、俺、パス……部屋、戻ってるわ……」

「僕も、耐えられないかも……ごめん、みんな」


 そう言って、桃矢君と恭君は屋敷に戻って行ってしまった。

 ――私は、戻らなかった。

 たとえ何があっても、私は見届けるべきだと思った。

 それは、白羽部長を頼った私の義務なのだから。


「心……どうする?」

「……大丈夫」


 水無君の問いかけに、心は俯いたまま答えた。

 心も、私と同じことを思ったのかもしれない。

 涙の向こうの瞳には、どこか芯の強さがうかがえる。


「咲真、引くぞ」

「ああ……」


 咲真と波多君の手によって、ゆっくりとロープが引き戻される。

 始めからこうであったかのように、ロープは継ぎ目なく赤く染まっている。

 がさがさという音が近づいてきて、ロープの先の手応えの正体があらわになろうとしている。


「う、これ……って……」


 咲真が手を止めた。