「カードには、『二十二時になったらよい子はおやすみの時間』だったな」


 私の部屋にあったものとまったく同じ文面だ。

 問題は、メッセージの方。

 きっと、咲真の名前か、アリスの登場人物の名前が書かれていたんじゃないだろうか。


「私も、同じの見つけたよ。メッセージがあったのって引き出しの底でしょ?」

「うん、それ。ありすはなんて書いてあった?」


 咲真は私の目をじっと見つめて、()いた。


「私は、『ようこそ、アリス』って……」

「アリスって、片仮名で?」


 ……そう訊ねるってことは、きっと咲真もアリスの登場人物の名が記されていたのだろうと推測する。


「うん、そうだよ」

「そっか……俺は『ようこそ、チェシャ猫』って書いてあったよ」


 チェシャ猫……『不思議の国のアリス』の物語上では、にやにや笑いを浮かべた神出鬼没の猫で、アリスにヒントをくれる存在だ。

 表情が(とぼ)しい咲真とは正反対だけど、アリスに道を教えてくれるのは少し合っているかなと思う。

 咲真はいつだって、私の手を引いてくれる存在だ。


「チェシャ猫かぁ、他のみんなは何だろうね?」

「……ありす、今のは他のみんなにはあまり言わないようにしよう。みんなのことを信じていないわけじゃないけど、一応、ね」

 ……みんなに隠す必要はないと思ったけど、咲真にそう言われたら従わない理由はなかった。

 絶対に隠せと言われたわけではない。

 一応、の約束に過ぎないのだから。

 私は「わかった」という返事と共に頷いた。