「……どうしてですか?」


 彼は眉一つ動かさなかった。

 残念だ、自らの死を意識すれば少しは恐怖するかと思っていたのに。

 しかし、その理由はすぐに思い当たる。

 きっと彼にはもう、生きる意味ないなどないからだ。

 愛するありすはもういない。

 傷まみれで孤独な彼はこれ以上、生きることを放棄したのだ。

 僕に問うたのも、おそらく本当に答えを知りたいわけではなく、惰性(だせい)だろう。

 すべてを知った彼の瞳は暗く、生きているのか死んでいるのかわからない。


「君を愛してるから。僕と君はよく似ているのさ、僕だって愛する人の色々な顔を見てみたい」

「……そうですか」


 彼はそれから、何も言わなかった。

 その瞳の闇が僕に対する絶望ならいいのに、彼は僕を見てさえいない。

 けれどそれでも構わなかった。

 それはそれで、初めて見る彼の顔だ。

 僕の合図で、仮面たちが庭園に現れる。

 金を餌に(つの)った馬鹿な奴隷たちは、水無を処刑台の上に引っ張っていく。

 あっという間に頭を固定された彼は、無ともいえる表情で僕を見た。


「……最低です」