いつも入れているスマホがないし、腕時計もつけていない。

 今さらながら、みんなが何も持っていないのだということに気がついた。


「みんな、後ろ――あれ、見て」


 祐奈の声に振り向くと、そこには私たちが入ってきた扉の上に、大きな壁掛け時計が据え付けられていた。

 一度気づいてしまうと、時計の針が動くカチ、カチという音がひどく耳障りだ。

「あれだけが頼りってことか」


 今、時計の針は二時を指している。

 と、いうことは食堂は開いていないのだろう。

 波多君が確かめるように食堂のドアノブに手を伸ばしたが、やはりドアは開かないようだ。


「次、行くか」


 白羽部長が隣のドアに近づくと、そこには『音楽室』のプレートがあった。

 白羽部長はドアノブに手をかけてひねり、ゆっくりと引く。

 すると、少しずつドアの向こうの景色が広がっていく。

 みんなが息をのんで見守ったが、ドアが完全に開いて、一気に肩の力が抜けた。